先日の瓦礫捜索訓練で、午前中行った訓練では、犬が臭いを感じてからヘルパーを発見するまでにいくつかの特異な行動が見られました。その行動とは、臭いを感じるところが空気の流れで思わぬところに現れ、それを犬が「どこだどこだ!」と追及し続ける姿です。
犬が感じる臭いの本質は?
隠れた人(ヘルパー)からは、気体(呼気に含まれるガス分子や皮膚から直接発生する微量ガス)や体内外部から発生する微細な液滴、あるいは皮膚の代謝産生物や常在菌分解物など絶え間なく発生もしくは放出されています。比較的大きな微粉体としての皮膚からの落屑(らくせつ)も崩落します。
私たちの人体からはこのようにいろいろな物質が、目には見えない微粒子もしくは気体となって放出され続けています。気体状のものは空気とまざり拡散しますが、微粒子状のものはいわゆるエアロゾルといわれる状態で空気にとりこまれ、移動、拡散していきます。
これら空気にとりこまれた物質は、それぞれ犬にとって独特の臭いとして感じるものになります。空気の流れは、大小さまざまな渦のかたまり「乱渦(らんか)」または「乱子(らんし)」と呼ばれるものでできていて、ヘルパーからの臭い物質(ガスやエアロゾル)は乱子に巻き取られるようにしながら移動していきます。
流れる空気の動き(風)はたくさんの渦で構成されていて、下図のような形で移動しています。大きな渦の力は小さな渦に伝達され、さらに小さな渦へと伝わっていきます。風の流れの中に波が生まれるのはこのような動きによるものです。

空気の中に取り込まれた臭い(物質)も、このような渦や波となって移動するので、風を感じる戸外では、臭が均一に薄い、濃いというような場はなく、濃い部位が流れてくれば瞬間的に強く感じ、そしてまたフッと薄くなって臭いがとれなくなることがイメージできます。ただし、臭いが常に供給され続けていれば、風上から断続的に臭いのついた大小の気塊が流れてくるように感じることでしょう。
臭いを取りこんだ空気塊はどのように移動する?
さらに、その流れは、障害物など流れを邪魔する物体によって、大きく影響します。流体の水の流れに似たようなその動きは、イメージすることがそう難しくはありません。

実際の空気の流れは、いろいろな障害物や変化する風の方向や強弱で、かなり複雑になります。しかし、犬の反応と照らし合わせることで、臭いを伴った空気の移動がある程度読めるようになります。
そのイメージが下図で、先日の捜索訓練での一場面を模してみました。
瓦礫として構成された場所は、周囲を壁に囲まれたり、吹き抜ける窓や穴があったりと障害物や遮蔽物が散在しています。このようなところに風が流れると空気の流れは乱れ、分流したり渦を巻いたりと見た目以上に複雑な動きをしています。
隠れ役(ヘルパー)から絶え間なく放出される臭い物質は、ヘルパー付近に移動してきた空気の渦(乱子)にとりこまれ、より大きな気流の流れや渦とともに移動していきます。
臭いを取り込んだ渦が多ければ多いほど「強い」臭いを感じ、そのような臭いをたくさん取り込んだ気塊が集まるといわゆる「臭い溜まり」と呼ばれる状態になります。その臭い溜まりも、強弱を繰り返す乱渦の移動で、臭いとして薄くなったり濃くなったり、あるいは消えてしまうこともあります。
しかし、常に臭いを出し続けている(供給し続けている)ヘルパーが潜んでいる限り、結果的に風向きが同じであれば、同じような場所に同じような臭いの溜まりが断続的に生まれるはずです。
犬は、臭いを濃く感じるところで、より大きな捜索意識が覚醒されるかのような反応を示します。捜索に慣れていない犬は、濃い臭いの部分で「見つけた!」かのような動作をしたり、その臭いが、フッと消えて「迷い」、またフワ~とした臭いを捉えて、「ハッ」とするような経験をします。
それでも、次々と臭いが送られてくる状態の中では、本能に火がついたかのように懸命になって臭いの元を見出そうと動き回ります。浮遊臭としての気塊を追い求める狩猟本能に目覚めれば、犬は自然にヘルパーからの臭いを探し求め、一番臭いの強く感じる場所へと移動し、最終的に臭いを放出しているヘルパーもしくは瓦礫の隙間に到達して、発見!咆哮(アラート)してくれるのです。
たとえ臭いの流れは複雑であっても、行動する上で難しさがない設定で、犬に発見成功させる喜びと達成感を与え、経験を積ませていくことにより、臭いを探し求めることが楽しくワクワクとして、より積極的になり、探し方もうまくなっていけるはずです。
またもし、探している途中、臭いを見失ったり、臭いが多くの場から感じて追及できなくなったり、あるいは、濃い臭が流れてくる方へ行きたくても障害物などで近づけないとき、そういうときはどうすべきか?
続きはまた。
瓦礫捜索訓練には、実践的な災害救助犬(捜索犬)を目指し、また信頼される捜索作業につなげるために多くの捜索犬関係者が集まりました。
訓練は、それぞれのレベルに合わせながら、基本的な捜索意識の強化を図ることから、より困難が伴う捜索へとランクアップし、それぞれの犬の性格や対応力を見ながら問題点を見い出したり、あるいはハンドラーとして会得しておかなければならない事柄を気付かせたりするよう進めて行きました。
犬の行動を冷静に観察し、その場その場で起こる反応や行動に対してその原因をつきとめ、的確なハンドリングを学んでいきます。また、いくつかの失敗を含めて実地体験し、より良い結果に繋げていく術を身につけていきます。
課題が見つかった犬には、普段の訓練で、解決を図るよう促します。このような模擬実践訓練では、犬の問題点発見はもちろんですが、災害救助犬ハンドラーとしての自覚と技術、そして得られた知識を含めて磨いていくことが大切です。
現場で起こるあらゆる事柄を想定しながら、このような瓦礫を使った訓練の積重ねがあって初めて被災現場で起こるであろう種々の難問を解決することにつながります。
最終的には、自分で考え、判断し、その現場で最良の作業ができるよう、犬の持てる能力を最大限引き出しながら「行方不明者(要救助者)発見」を目指さなければなりません。
基本強化訓練
基本強化訓練では、捜索意識のついた初級犬や瓦礫環境での捜索経験の薄い「これからの捜索救助犬」を中心に、足場の悪い瓦礫の中で隠れ役(ヘルパー)の臭いをとって、見えるヘルパーの近くでしっかりアラートさせることから始めました。
その次ぎは、やや離れて、ハンドラーにも犬にも見えない位置にヘルパーが隠れで、捜索させ、犬は近づけば少し見え、臭いもはっきりとれる位置まで行かせてアラートさせます。
捜索犬として訓練する犬には、ラブラドールレトリバーやジャーマンシェパードが多くいますが、ヨーロッパで元々作業犬としてつくられたダックスフントにも追及、捜索といった豊かな犬の本能が隠されていて、捜索を教えることにより、とても意欲的で果敢な作業をしてくれます。
第三弾目は、ヘルパーがどこにいるのか分からない状況を設定、犬とハンドラーだけの判断で探させますが、特別難しい場所ではありません。意外と近くに隠れていますが、犬の反応をしっかり見抜き、犬の自主的な捜索を邪魔しないようにしないと無駄な動きをさせてしまいます。
黒ラブ(瓦礫の陰に隠れて見えにくい)は捜索作業を覚えると得意になってやってくれます。
プードルも作業犬としての潜在能力が高く、的確な訓練で頼もしい捜索犬になれる犬種と言えます。
ベテラン犬?の捜索訓練 (1)
災害救助犬(捜索犬)の認定資格をとり、さらに多くの経験を積んできた犬にとっては、解体瓦礫は新鮮でワクワクする場であり、捜索欲を刺激し、能動的行動を磨くのに良い環境を提供してくれます。
逆に、行方不明者役(要救助者役)のヘルパーが隠れる場所を上手に設定するのが難しくなります。解体現場のコンクリートと鉄筋の入り混じった中で、理想的な仮想埋没場所にヘルパーが入りこむことが困難だからです。いろいろなアイデアを駆使して、犬が簡単に近付けられなかったり探し出せないような位置にヘルパーを隠します。
それでも、意欲的で経験豊かな犬は、臭いをうまく捉えてヘルパーを探り当ててくれます。
チャンスもそれなりに歳を重ね?経験豊かな犬の仲間に入ってくれたようです。
この現場では、わざと風上から入り、区分したエリアの中をチェックさせながら移動し、最後の方で臭いを捉えるようにさせました。風下側から入るとヘルパーの臭いを早い段階で捉えてしまい、瓦礫全体の捜索作業をさせることができないからです。瓦礫内の丁寧な捜索を考えるときの捜索方法として風上側からあえて出すやり方は現場状況によっては有用かも知れません。しかし、早くに見つけられる人の発見を優先するならば、風下からの捜索が常道と言えます。今回は、ヘルパー1名とわかっている中での訓練なので、長く捜索作業を続けるための工夫でもありました。
ベテラン犬?の捜索訓練 (2)
この設定では、隠れ役(ヘルパー)が鉄筋やコンクリートブロックで邪魔された瓦礫奥の下の方に潜んでいました。ヘルパーの臭いは流れ込む風と噴き出す風の影響で、あちこちから発散するため、捜索する犬はその臭いをあちこちで感知してしまいます。なかなか特定できずに迷い続けました。
理由は、犬が隠れ役のすぐ近くまで行けないこと、臭いがたくさんある気流の道を伝って流れ出ていることなどで、発臭源へつながるポイントを掴めきれないことにありました。
臭いの流れてくる箇所をハンドラーが読み取り、犬により強く臭いの流れてくる箇所を気付かせるような対応のできることが必要になります。結果と原因が分かれば「簡単」とも言えますが、実際の現場のように要救助者の埋没位置が全くわかっていないとき、ハンドラーが冷静にその場の状況を読めなければ特定させることができないという、難しい捜索パターン一つといえます。
26日の土曜日、東京都目黒区内の古い住宅解体現場を借りて瓦礫捜索訓練を行ないました。
捜索救助犬を使った「人」を探す訓練は、擬似瓦礫を模した種々の箱等を使って行うことができますが、より地震災害などの被災現場に近い状況下での訓練は、建物の解体現場を利用するのが一番適しています。

この日は地元の目黒消防署の関係者が見学されました。消防関係者も災害救助犬(捜索犬)の作業を直接目にすることがないため、捜索犬の能力と有効な活動を知ってもらうのに良い機会にもなりました。
瓦礫に埋もれた人の捜索
災害救助犬(捜索犬)が瓦礫下の人を探し出すことができるのは、倒壊建物の瓦礫に隙間があり、そこから閉じ込められた人の臭いが漏れ出してくるからで、漏れ出す臭いが一番強いポイントを教えてくれることが理想です。ポイントが絞れないと、救出救助を行う人は大変な労力と時間を費やさなければならないからです。
「この付近」「この下」というポイントが確定されれば、瓦礫の除去や掘出しが最小限で済みます。短い時間と労力で救出するためのポイント捜索は、雪崩事故時の捜索と同じ意味をもっています。
瓦礫下の人から出る臭いが瓦礫の隙間から上に移動して漏れだし、捜索犬はそれを強く感じ取ったところで吠えて知らせます(告知:バークアラート)
犬が漏れ出す臭いを直接感じ取る場合、鼻を地面や瓦礫の隙間に直接近付けて嗅ぎ取りますが、その付近に至るまでは、「高鼻」と呼ばれる空中に漂う臭い(浮遊臭)を捉えて、その流れてくる方向を探し回ります。そして、臭いの出ている(強く感じる)発臭源を見つけ出し告知に至ります。
この探し方は、前に紹介した雪崩事故での雪中埋没者を探し出す行動と基本的に同じです。ただし、倒壊家屋や瓦礫の場合は、臭いの分散、複雑な気流の流れなどで犬が現場での作業に慣れていないと、なかなか発臭源まで辿りつけないことがあります。危険が伴う足場の悪さも犬にとってはクリアしていかなければならない大きな問題です。
詳しくはまた後日に記しますが、瓦礫を使った捜索訓練は犬も人(ヘルパー)も多くの技術と知識を身につけるために大切な訓練の一つです。
より実践的な瓦礫捜索を目指すには、僅かの臭いしかとれないような場所で、「捜索の見逃し」がないように丁寧に、かつしっかりと嗅ぎ取ることのできる犬をつくる訓練が必要になります。
雪中捜索も埋没者ポイントに近づくまでは雪面から漏れ出す臭いが風で運ばれる「浮遊臭」を捉え、ポイントに近づきながら雪面からの臭いを捉えようと行動していきます。
「爆弾低気圧」というややマニアックな呼び名を使うメディアが多くなりました。急激に、猛烈に発達した低気圧のことを言いますが、24日から急激に発達して強い冬型の気圧配置を導いた低気圧はまさにそのとおりの低気圧でした。
「爆弾」というインパクトもさることながら、急激に発達する低気圧の気象現象に伴う気象災害が顕著に表れやすいことから、危機管理の一環として多くの人の心に訴えかける言葉としては良いのかもしれません。
厳冬期に発達する低気圧のあとから必ずついてくるのが、「寒気を伴った強い冬型(西高東低)」です。天気図を見て、また気象衛星の画像(日本海から筋状の雲が次々と日本海側の陸地に襲い掛かるかのような雪雲の画像)を見ると、その影響を直接受ける山々では大雪になっているだろうなぁ、と感じるのはごく自然です。

このようなとき、雪雲の影響を直接受ける山域では相当な降雪を伴っています。
1日に、30cm、40cm、50cmという積雪が当たり前な世界。急激な降雪とそれに伴う積雪はそれ自体不安定な状態です。年末の北アルプス槍平での雪崩も然り。豪雨ならぬ豪雪時、どこでも雪崩れる危険をはらんでいます。

しかし、この気象条件のとき、週末の土日ではなかったのは幸いでした。過去の気象遭難の多くは、土日に入山して悪天でも強行しようとした登山あるいはスキー、スノーボーダーもしくはスノーモービル愛好者が雪崩事故や道迷い、疲労凍死など巻きこまれているからです。
たとえ積雪不安定で、あちこち自然に雪崩れていても「人」がいなければ「雪崩事故」にはなりません。同じく人の生活に影響しなければ「災害」とは呼ばないからです。
とはいえ、明日からの土日、入山する人は多いと思います。天気は少しずつ回復に向ってはいるものの、この1~2日に多くの雪が積もった山域では、積もった雪がスラブといわれる雪の層をつくっていて、積もる前の雪面とつながりの弱い状態でじっとこらえているイメージを感じています。山々は「一見静かなたたずまい」を呈しているが、その実「ヤバイ」状態と想像されるからです。
積雪が多かった山域では、雪質の状態をしっかりチェックして、とくに地形的に危ないところは、念には念を入れて行動してほしいと思います。
もしも、この土日に雪崩に遭遇して事故にあったら… それは不慮の事故ではなく、雪崩を甘く見た結果と言われても仕方ありません。
とにもかくにも、雪崩に遭わない「術」を身につけましょう!
※ 天気図及び気象衛星画像は気象庁資料より
1月14日に入笠山で行われた雪崩講習会での捜索犬デモについての反省をしましたが、ビデオ記録があったのでより客観的にチャンスの捜索行動とハンドラーの行動を検証してみました。

捜索救助シュミレーションを行った現場の状況(設定)は上図のようになっています。
遭難パーティーから近くいた別パーティーによる人的捜索救助活動が初めに行われましたが、救出救助活動で使ったり置いたプローブ、スコップ、ザック等がその周辺に残置されてたままになっていました。
埋没者役(生体)は捜索救助シュミレーション開始前に雪中に埋まっています。

人的捜索救助デモの終了後まもなく、チャンスによる捜索デモが開始されました。
捜索意識はありますが、周辺に数多くある誘惑品(おもちゃ的な感覚でいつも目をつけて気になる手袋など)を出発地点近くで目にしていたため、捜索開始からいきなり③まで戻り、誘惑品をものにしようとしてしまいました。
命令でこれをやめさせ、あらためて捜索エリア方向(B地点から右上方向)に「サガセ」で出したところ、人的捜索救助で多くの人の臭いが残留している雪面及びザック等の臭いをとって⑤~⑥周辺を盛んに嗅ぎまわしました。
その後まもなく、遭難者遺留品として置かれた手袋を発見し、銜えて私のところまで持ってきました(レトリーブ)。この行動自体は捜索中に遺留品を発見し持ってくることが遭難者発見に結びつく行動で悪いことではありません。
④~⑧までの行動は、嗅覚を使って捜索するものの、埋没者の臭いをとることができず、他の臭いに惑わされながらの捜索行動と見ることができます。捜索エリアとして出した地点は、埋没者の臭いが出る雪面の風上に位置するために、チャンスは探すべき人の臭いをとれていません。(捜索前半)

遺留品である手袋を受けたあと、C地点から再び雪崩、遭難したと仮定されているエリアに向けて出してしまいましたが、もっと風下に移動してから出すべきでした。(捜索後半)
案の定、遭難者(生体)の臭いはとれず、⑨~⑫と探し求めているにも係わらず、臭気反応を見ることができませんでした。
この段階で、ハンドラーである私はようやく、もっと風下に移動して捜索エリアを広げるべきと気づきました。
C地点からD地点に移動して捜索しようとしたところ、臭いがとれないでいたチャンスは見学者近くの誘惑品に目を奪われたかのように行動⑭しましたが、強く呼び戻し、左上方のエリアに向けて出したところ、雪面に出ている埋没者の臭いをすぐに捉え、スクラッチして掘出す動作に移り、最終的に咆哮(アラート)してくれました。
非常に多くの誘惑品、残留臭がある中で、埋没者の臭いを早くに捉えられる位置(風下)に移動しなかったことは大きな失敗で、余計な行動と捜索時間の浪費をしてしましました。
現実の雪崩現場には余計な残留物や臭いは少ないですが、遭難埋没したと思われる位置の風下に早く移動して、そこから捜索させることが基本であることをあらためて思い知らされた結果でした。
なお、デモでは、埋没者の臭いを捉えて掘り起こす動作をしていても吠えるまで救出依頼をしませんでしたが、本番であれば明確な反応があれば、即救出作業に移ることになります。
14日の講習会では、最初に雪崩に遭ったパーティーの一員が近くにいた別のパーティーに救助要請し、埋没した登山者をビーコンとプローブを用いて捜索し、発見後掘り出し、救出、搬送するというシュミレーションが行われました。
登山パーティーによる捜索救助

雪崩で仲間が埋まったしまったパーティーの一員が別パーティーに救助を求めてきたところ。

救助するパーティーはリーダーの指示にしたがって、ビーコン捜索隊員、プローブ捜索及び掘出し隊員、2次雪崩見張り役を速やかに整えて、埋没者消失点~遺留品残置点~デブリと流され埋まって行く範囲をビーコンで捜索し、発信地点を探り出します。

埋没遭難者を発見~掘出し~救出~搬送へと進みます。
雪崩救助犬(捜索犬)による捜索
登山パーティーによる捜索救助シュミレーションに引続き、雪崩遭難時、近くに雪崩救助犬がいたという仮定で、事前に埋没状態にされた遭難者役を捜索させ、発見後救出するというデモを行いました。デモと言っても、チャンスにとっは実際に近い鼻のみが頼りの埋没者捜索です。
再び遭難者パーティーから捜索を頼まれます。
捜索エリアと思われる位置から風下へ移動し、捜索開始「サガセ!」
先ほどのシュミレーションで多くの人がいた場所にザック他も残され、捜索の前半はそれらの臭いに惑わされたり、チャンスにとって魅力ある手袋などに翻弄されたり… 無駄な動きをやってしまいました。
埋没者から出る臭いを探し続けます
埋没者の臭いを捉えてスクラッチ
無事発見救出
作業を終えて…
チャンスの捜索と反省
チャンスは誘惑物品に惑わされ、発見まで通常の訓練にくらべると時間がかかり過ぎてしまいました。雪中からの臭いは十分出ているはずです(深さと埋没時間)が、ハンドラーである私がその地点より風下に入っていませんでした。埋没点から出る臭いの風下にまで移動しなかったのは失敗でした。
とくに、私がチャンスを出した地点は、先ほど救助シュミレーションでたくさんの人の臭いのついた雪面があるだけでなく、人の臭いのたっぷりついたザックやスコップなどが置いてあり、埋没者の臭いの出る風上にいたことで、それらの臭いしかとれなかったため、それが余計な行動につながってしまったと思われます。
私は、埋没者の位置を知らなかったのですが、捜索エリアを埋没者の位置より狭く設定して出してしまったこと、それが結果的に風上出しになっていて、臭いを捉えられなかったことがいけません。鼻を使った捜索では、出す位置の良し悪しで無駄な作業をさせてしまうことが多々あります。反省、反省…。
13日~14日は寒気に覆われ、冬山らしい終日氷点下の中、雪崩事故を防ぐための講習会が実施されました。

積雪の安定具合を簡易な方法でチェックする円柱テスト(弱層テスト)のノウハウを身につけます。雪崩れやす状態かどうかを判定し、ルートの選定、危険地帯の回避など地勢や植生などの情報を加味してより安全な行動判断に繋げます。

雪崩で埋まったらどんな状況になるか、擬似埋没体験も雪崩の怖さを知るのに役立ちます。掘り出し時には、救出時に必要ないくつかの要点も知ってもらいます。
埋没体験は危険を伴なうので、呼気確保、無線等での通話確保、低体温化防止のための時間制限など、安全を確保をした上で行うようにします。ビーコン装着&発信は言うまでもありません。

ビーコン(発信機)による捜索訓練の他、プローブ(ゾンデ)を使った雪中埋没者捜索の方法を学びます。

1月12日から14日まで、長野県富士見町にある入笠山周辺で雪崩講習会があり、講師の一員としてチャンスと参加してきました。
雪崩事故は登山や山スキー、スノーボードなどの雪山に入る者が、雪崩についての無知から起こるもので、雪崩講習会は、雪山と雪と雪崩についての正しい知識を身に付けることにより、雪崩に遭わない対応ができるようにしようとするものです。また万一雪崩に遭遇したとき、冷静に捜索救助活動ができるよう訓練する場でもあります。
今回の講習会は、日本勤労者山岳連盟の関東ブロックが主催するもので、昨年まで谷川岳で行っていましたが、今回は場所を入笠山に移して実施されました。
雪崩現象は、気象の変化、降雪の状況、積雪内の変化、山の地勢などに大きく影響され、その危険度は変化しますが、雪崩れるか雪崩れないかの微妙な状況下では、登山者やスキーヤーなどの刺激(荷重付加)が雪崩を誘発させます。雪山に入る者が雪崩事故に遭わないようにするために、また雪崩事故で死なないためにも雪崩講習会で雪崩回避の方法を知る意義は大変大きいと言えます。
山のベテランと言われる者が、多くの雪崩事故で死んでいることは残念なことです。しかし、それはどんなに長く山をやっていても、雪崩に関する正しい知識や技術、装備を身に付けていない限り、雪崩事故を回避することができないことを示しています。雪山歴の長さに関係なく、多くの雪山入山者が雪崩講習会を受けて欲しいと願っています。
変化する雪と氷の世界
空から降ってくる雪はそのときの気象条件によっていろいろな違いがありますが、私たちが雪山で触れ、目にする雪も、日々その姿を変え、積雪内部でも時間と共に雪質の変化(変態といいます)が起こり、安定性も変化しています。
氷点下の世界であっても、雪の世界は常にその姿を変えているのです。
前の写真は樹氷と呼ばれる美しいホワイトツリーがたくさん写っていますが、これは、氷点下の霧が左(西)の方からやってきて、樹枝に触れた途端に氷となって付着した状態です。風上の樹林ほどたくさんの霧の粒(雲の粒と同じで「雲粒(うんりゅう)」と呼びます)が凍り付いている様子がわかります。
霧の粒(雲粒)のように小さい水滴は、氷点下になっても液体(水)のままでいられるのです(過冷却の状態といいます)が、それが物(樹枝)に触れた刺激で、瞬間的に氷となってカチカチに付着するのです。
ホワイトツリーは樹氷が主体ですが、気体になっている水、即ち水蒸気が凝結して霜になってくっつく「樹霜(じゅそう)」になっている部分もあります。これらの霜(樹霜)はもろいので、風が吹いたりするとすぐに落ちてしまいます。美しい樹氷の林の下を歩くとき、空は晴れているのに雪が降ってくるような錯覚を経験することがありますが、これは樹霜が崩れ落ちて舞い降りてくる状態なのです。
写真上 : 13日の朝、入笠山近くで見られた「しだれ樹氷?」(樹霜) 雲粒が凍結付着した樹氷ではなく、霜の結晶がのびています。空気中の水蒸気が枝の回りに直接凝結して霜の結晶を成長させている様子が見られます。13日の朝、気温は氷点下10℃ほど。昨日の雨~雪のあとの夜の晴天で冷え、湿度の高い空気から水蒸気が凝結して生まれたものと思われます。
目を下に移すと、雪の表面や氷の表面にも、美しい霜の結晶があちこちに育っていました。
写真上の上 :雪の表面に霜がおりた「表面霜」 写真上の下 :氷の表面に霜の結晶が成長
霜は、大気中に含まれた水蒸気が冷たい物質の表面に凝結してできます。たとえば、冷えた朝の車の表面が白くなるのは、その現象の身近な例です。枯草に着いた霜もよく見る例です。
上の写真のように雪の上や氷の上にも霜が降りることがあります。新雪が降っていないのに、朝日を浴びて、雪の表面がキラキラ光っているときは、雪の上に霜が降りている状態です。
30日の朝は、土合駅近くで雪中捜索訓練のウォーミングアップを行ないました。
ようやく降り積もった僅かの雪の中、雪中というよりも雪上で身を伏せたような場をつくり、犬たちに広域捜索のような形で「サガセ(サーチ)!」のコマンドを出します。
犬のレベルにもよりますが、意識づけとしてのウォーミングアップなので、適宜呼びこみも行います。なるべく足跡臭をつけず、風上の一角に隠れますが、雪の中でのフミアトはそのまま足跡臭の跡として残ってしまうのでここはあくまで捜索のための「意識付け」導入訓練として行いました。

犬なし参加のOさんが電車で土合地下駅(下りホーム)に到着するので、途中まで出迎えに行きました。
高低差338m、462段の階段を登らなければ地上の駅に着きません。タイムトンネルのような異次元空間のようです。
天神平での深雪捜索訓練
参加者が揃ったところで谷川岳ロープウェイ乗り場に移動し、天神平へ上がりました。
スキー場脇から樹林帯の深雪地帯に犬と共に登り、あらためて雪中捜索訓練の開始です。
まずは、雪中埋没遭難者役(ヘルパー)が隠れる穴(雪洞)を掘りますが、しっかり入れる雪洞を掘るのはなかなか大変です。
ヘルパーが雪洞の中に入ります
雪洞の入口をブロックでふさぎ、このあとさらに雪をかけて生めます。
この訓練には、スコップとスノーソーが欠かせません。雪洞をふさいでも中の空気も豊富で、ヘルパーが酸欠を起こすようなことはありませんが、雪でふさぐと声のやりとりはほとんどできなくなるので、無線機を利用すると安心です。
どこに埋めたか(閉じこめたか)わからなくなるような設定のときは、プローブ(ゾンデ)棒を印しに立てたり、ヘルパーにビーコン(発信機)を装着させて安全性を高めます。
ヘルパーが埋もれた状態になってしばらくすると、雪面のどこかに(積雪層やブロックの隙間から)臭いが漏れ出してきます。瓦礫捜索できる犬は、雪の中にも人がいて、見つけると嬉しいことがあるとわかれば、雪中捜索を喜んでやってくれるようになります。
「サガセ(サーチ)!」で捜索開始。風下から臭いを感じる雪上へ移動し、臭いを強く感じる箇所でアラート(告知咆哮)します。
※ よく、雪崩捜索犬は、雪崩を誘発するから吠えてはいけない、という話を聞きます。しかし、それは俗説であり、雪崩事故がおこるような場所(積雪不安定場)での雪崩誘発原因とは、人的負荷(登山パーティの並んで歩くことによる荷重集中、スキーやスノーボード、あるいはスノーモービルなどによる荷重負荷や剪断力等)が最大の原因で、大声で雪崩事故が起こるような場所は、日本には無いに等しいとも言えます。
捜索欲の強い犬は雪上で臭いを感じると、自然に掘り起こそうとする動作(スクラッチ)をします。雪が硬く、掘り起こせない状況では積極的に吠えて知らせてくれます。雪崩現場(デブリを含む)の雪は時間とともにどんどんしまり、硬くなっていきます。また、雪やガスで視界の悪い状況も多々あることを考えれば、臭いを感じてくれる場所で吠えてくれることは、捜索する側としては有利とも言えるのです。
雪崩などによる埋没者の位置や深さを確認する道具にプローブ(ゾンデ)という3mほどの棒があります。
生体と靴や装備品との感触の違いを体験してもらいました。


帰途は再びロープウェイにて犬たちと下ります。

犬も人も楽しく充実した訓練を終え、満足、満足。
30日~31日にかけて谷川岳周辺(土合~天神平)で雪中捜索訓練を行ないました。中部山岳地帯では大雪に見まわれたにもかかわらず、こちらでは小雪が舞うにとどまり、新たな積雪も20cmにみたない状況でした。
なぜそうなったのか、訓練時近くの天気図を調べてみました。
上空の寒気は大雪になるだけの低温を示していましたが、雪を降らせるための水蒸気の供給の少なさ(雪雲の流れてくる方向)が、一昨年末と昨年末における雪の量の違いの大きな理由に思えます。
31日午前9時の天気図(気象庁資料)を見ると西高東低の冬型ですが、等圧線が横に寝ています。そのせいで、日本海から中部山岳~谷川岳山域に流れる風の方向はおおむね西寄りとなっています。
西の方の山ほど日本海で生まれた雪雲の直接的影響を受け、大雪になりやすいのですが、谷川岳まで到達するまでにたくさんの山を越えなければならない雪雲たちは次第に衰弱し、谷川岳付近ではすでにあまり多くの雪を降らせることができません。
ここでは触れませんが、詳しくは当日の降水量の違いを西の山域から東の山域近くのデータを調べるとよくわかります。
それに引換え、一昨年(2006年)末での訓練時、冬型の等圧線は南北に立っていて、谷川岳付近も日本海からの雪雲を直接的に受けるので、多くの雪が降りました。
上の写真は、一昨年末(2006年12月29~30日)の模様。激しく降る雪の中の訓練でした。
これらの天気模様は私たちが谷川岳周辺で雪中捜索訓練を行っているときの状況を、その時間帯に近い天気図で考えたもので、その後の気圧配置の変化では降雪の状況もそれぞれに変化しています。あくまでも、訓練していたとき、あるいは捜索(登山)していたとき、どのような気圧配置であったか、どのような風向きが優性であったか…等々、知ることは山岳捜索などの際に検証しておきたい情報の一つです。
ただし、現場での風向きは、地勢の影響を大きく受けるので、支尾根や谷の向き、形で微妙に変わります。犬を使った捜索は「嗅覚」が頼りであるために、遭難者の臭いの風下から出せる環境に犬を置くことが大切になります。その日の捜索ルートと風向きには常に注意を払う必要があります。
ここ数年、年末から4月にかけての積雪期に、土合山の家を利用して、土合~谷川岳天神平周辺で雪中捜索訓練を行っています。
雪中訓練は犬にとって新鮮で楽しく、捜索欲をかき立てられ、またハンドラー(犬を指導する者)にとって得るものの多い訓練です。

雪に埋もれた遭難者役の人の臭いを探し出し、潜りこもう(掘り出そう)とスクラッチするチャンス
年末の30日からは強い寒気が南下し、冬型が強まって大雪になると予想されていました。しかし、30日朝、水上ICで降りたときは低気圧に流れ込んだ暖気の影響でまだ暖かく、雨がパラつく状態でした。湯檜曽あたりからようやく雨からみぞれ~雪に変わっていきました。
土合駅では雪が降り続く状態となりましたが、その後天神平に上がっても小降り状態で思ったほどの雪にはならず、訓練にとっては楽な天候でした。
30日夜の降雪は少なくたいして積もりませんでした。31日も大降りとはならず、ちょっと拍子抜けの感ありです。
西日本から中部山岳方面はかなりの雪が降っていたのに… 何故でしょう。
その原因は発達した低気圧と高気圧の間の等圧線の関係で、日本海からの雪雲供給のされ方がいつもとは少し違っていたためだと思われます。
その辺のこと&捜索訓練模様などについてはまた追って…
昨年(先月)ブログを立ち上げたのはいいものの、操作もよくわからず、慌ただしい日々に流されて、なかなか記事をアップできません。
これからも、しばらくは遅いペースで行きますが悪しからず。
年末年始は予想されていたとおり、冬型となって強い寒気が入り日本海で生まれる雪雲の影響を受ける山々は大雪にみまわれました。
深い雪とラッセルに悩まされ、目的地まで行けずに敗退したという幾人かの知合いからの情報も入ってきました。
槍ヶ岳登山ルート途中の槍平での雪崩遭難は残念なニュースです。
行動中に起こる人為的誘発の表層雪崩ではなく、多量の新雪が雪崩れて煙状態となってテントサイトにまで押し寄せたように思われます。
一晩で60cm、100cmという短時間豪雪は、通常の常識をはるかに超える脅威をつくりだすようです。「こんな場所でも、こんな状態のときは、こんなことまで起こり得る」という事実を肝に銘じておきたいと思います。