山と瓦礫と捜索犬
山の中、雪の中、瓦礫の中、鼻を使って人を探す犬がいます。 そんな「捜索犬」活動の一端と興味ある自然現象及びとっておきの写真などを紹介します。
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体感!寒冷前線(続)
寒冷前線通過 風と気温とスピード


Dsc00276 旋風の通過29 雲間から日が差し始める②
 

 2月23日、富士見市で体験した寒冷前線通過の様子をお伝えしましたが、その時間は写真に記録されていましたので、14時20分~14時40分くらいの間の出来事だったことがわかります。そして、前線によるものと思われる土埃で濁って強く吹きつける風自体も冷たかったのですが、通過後の気温がグッと下がったことが実感されました。

 どのくらい下がったのでしょうか?

 記録できるような温度計がなかったので、気象庁のアメダスデータを調べてみました。富士見のデータはありませんが、富士見の北東に「さいたま」、南西に「所沢」の観測地点があり、その間に位置する富士見での気温変化もだいたい同じだと推定できます。

 下図は、「さいたま」と「所沢」そして東京都「練馬」の気温変化をグラフにしてみたものです。寒冷前線の通過しはじめは気温の急下降し始めたときに一致します。富士見で体験した時間帯とも一致しています。
所沢・さいたま・練馬 アメダス気温データグラフ
  

 アメダスのデータを調べると、14時20分から14時40分の20分間に、

  
  所沢では、12.5℃から6.4℃で、6.1℃ 下がりました。

  さいたまでは、13.5℃から5.7℃で、7.8℃ も下がりました。

  練馬では、13.7℃から7.2℃で、6.5℃ 下がりました。 

  
 たった20分の間に、6℃以上下がればどう感じるか・・・  春から冬に逆戻り・・・ 寒いです。


 ところで、同じような気温変化をしている練馬ですが、大きな違いがあります。

  気温の下降が14時30分からで、所沢、さいたまより10分遅くなっています。これは、寒冷前線の帯がを通過してから練馬に至るまで、10分程度要していることを示しています。

  移動し通過していくイメージは下の地図のような感じです。赤丸は富士見の訓練場の位置です。


富士見訓練場の位置と前線の寒冷前線の通過イメージ

 

  所沢~富士見~さいたまはほぼ一直線上にあるため、先のグラフにある気温変化が同じ時間に現れているのです。去っていく土埃で濁った帯(寒冷前線を形作っている帯)は、富士見の南東に向って離れていく様子が写真に収められていますが、地図で見ると寒冷前線の移動と一致していることがわかります。

 10分後に練馬に達したとすると、距離として12~13kmなので、時速 72~85kmと計算できます。

 秒速に直すと、風速 20~24mということになり、体感した風の強さを裏付けているように感じます。実際の風速は複雑な要素が入ってきて、また地面との摩擦もあって平均するとそれ以下だと思いますが、低空を足早に去っていく雲の速さは時速70km以上だったのではないでしょうか。

 別の計算で、9時の天気図にある寒冷前線が、15時の天気図にある寒冷前線まで南下移動したことを考えると、能登半島から房総半島付近までの約360kmを6時間で移動しているので、時速60kmと算出されます。

 北のほうから南下するにつれて、だんだん早まり、14時を過ぎる頃には時速70kmを超えて強風を伴い、被害も多くなった・・・ と考えることができるのではないでしょうか。

 

 今回のような寒冷前線による強風は特別なものでしたが、風向や風の強さなど、日頃から意識して風の原因や空気の流れを知り、イメージすることは、捜索犬活動する上で得はあっても損はないと思っています。

 

 

 

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体感!寒冷前線
寒冷前線通過 真っ只中


 2月23日、日本海の低気圧が発達しその後強い冬型になる… という予報がでていました。捜索犬の訓練施設がある埼玉県富士見市に朝の9時過ぎに出向いた頃は、まだ春めいた暖かい空気につつまれ、全体穏やかな様相を呈していました。

 当日の気圧配置とその流れは下図のとおりです。左図は朝9時の天気図、右図は「寒冷前線真っ只中」から30分ほど後の午後3時の天気図です。 (気象庁資料より)
2月23日の地上天気図(9時、15時)

 日本海の低気圧が発達しながら東へ移動するとともに冬型になる過程を示しています。「春一番」が宣言されましたが、関東の南側にも小さな低気圧があってすんなりと南よりの強い風が吹いてくれなかったことも読めます。

 気になるのは日本海の低気圧から延びる寒冷前線の南下です。寒冷前線の北~北西側は冷たく乾いた空気、南側はそれよりも暖かい湿った空気というのが一般的ですが、南側にも寒冷前線があって、湿ったより暖かい空気はそのさらに南側… というような状態になっていました。もし、南側に低気圧がなかったら、もっと強い南風が吹いていたと思われます。

 さて、客観的状況とは別に、朝の9時頃より夕方5時過ぎまで関東地方の南部、埼玉県富士見市にいた私は、天気図に記された寒冷前線通過にともなう出来事を実体験することになりました。以下にその様子をお伝え致します。


 捜索犬の訓練は、風向きを考えながら行ないますが、午前中の訓練は南寄りの風を受けた中で、隠れ役(ヘルパー)の私は、訓練する犬から離れていく方向が南側になりました。

 訓練途中から風は南よりから西寄りにかわりつつあり、隠れ役の位置とそこから流れてくる臭いと犬の行動位置を考えながら、犬に臭いが捉えやすいようにハンドリングさせる必要があります。ヘルパーの風下に犬が入れば早く臭いを捉えられますが、風下から外れたり、風上側に入ると、臭いがとれずに右往左往するようになります。
 障害物や構造物の影響で、風上や横の位置でもまれに臭いを感じ取ることもありますが、基本的には風下側のエリアに犬を行かせることが大切です。臭いをとれないが故のムダな走りをさせず、早くに気付かせ、捜索意欲を強めるためにも、常に配慮したいことです。

 午前中の訓練を一通り終えて昼の食事を済ませ、午後の訓練を行なうときは、既に風向きは午前中とは逆の北寄りとなっていました。日差しも雲に隠れ、肌寒くなってきました。
 午後2時を過ぎ、捜索訓練する犬の区切りがつくころ小雨がぱらつき、「とうとうきたか・・」と天気の崩れを覚悟しました。
 しかし、雨は濡れるか濡れないか程度のものでやみ、その後急に風が強まってきて、車脇に置いてあったスーパーのレジ袋が吹飛ばされたりして、「やけに強い風が吹くな…」と思うのもつかの間、単なる「風の息」的な強風とは異なる「一様に強まりつつある強風」が吹き続けるようになってきました。しかも、透き通った風ではなく「濁った空気」を感じます。
 北の方向を見ると、空の雲と地上の濁り(土埃で霞んだ状態)が混ざり合い、それがこちらに向って近づいてくるように見えました。風は益々強まり、ゴーと音を立てながら吹き抜けて行きます。周辺はチリやホコリで霞むようになり北寄りの強風が延々と吹き続けるような感じです。
 
 「竜巻が近づいているのかも!」と一瞬危機感を覚え、車のドアを閉め、訓練場内の貨車倉庫の中に逃げ込み、様子を覗っていました。しかし、竜巻やつむじ風のような異変は見当たらず、土埃で赤くなった気塊が帯のようになって上空の雲とともに移動して行く様相が見えていました。「寒冷前線帯がいくつかに分かれて波打つかのように移動している様か・・・」と思えるようになりました。
 
 原因がわかると危機感は薄らぎ、しばらくはその様子を観察することにしました。

 訓練場から見る南方向 

Dsc00004 旋風の通過⑮ 黄色い気塊帯が南へ移動して行く様子

 飛び散る落ち葉と土埃の混じる強風が南に向って流れて行きます (南~南東方向)
Dsc00265 旋風の通過22 飛び去る落ち葉と移動する粉塵気塊

 濁った気塊は南に去って行くが、いくつかのまとまった帯を形づくって流れていくように見えます (南東方向)
 Dsc00256 旋風の通過⑱ 南に去る粉塵帯

 強風を受けて唸り音を上げる鉄塔
 Dsc00248 旋風の通過⑰ 強風で唸る鉄塔

 粉塵を含んだ強風が去ると雲が切れ始め日が差し始めました
 Dsc00292 旋風の通過33 雲間から日が差し始める⑥

 上空の積雲はゆっくりと南下していきますが、かなり低い高度(1000m以下)を地上の風の流れに近い速度で移動して行く灰色の雲片が目に付きました。また、南方地平線には通過し移動していった土埃を含む気塊帯が黄色く色づいて見えました。
 Dsc00437 旋風の通過44 西方面の様子①

 
 こうして、寒冷前線通過の強風と粉塵の洗礼を受け、そしてまたその前線帯を見送ることができました。

 
 

瓦礫捜索訓練 再び Ⅱ
瓦礫捜索訓練 再び Ⅱ  


 2月17日午後の連携訓練は、南側の半壊部分が残っている瓦礫周辺を使い、異なる3箇所に行方不明者(要救助者)役を隠し、3つに分かれた捜索犬チーム(各2頭)が順次捜索~発見確認作業を行ない、特定されたポイントからレスキュー隊員が要救助者を救出救助するという流れで行ないました。

 重機下に潜む要救助者役の臭いを捉えた捜索犬の様子
Dsc00079 午後の合同捜索シュミレーション(たなか、岡澤、小椋&向弾)

 半壊壁奥の捜索
Dsc00093 2人目捜索(橋本リベロの待避、春山&かのんの捜索)

 発見確認後、レスキュー隊が現場に入る
待機特救隊の救助開始②

 瓦礫左上奥に潜む要救助者役の臭いをとらせるために行く手を阻む鉄筋と瓦礫の山を登らせる。
チャンスの捜索⑥(障害物多し)★

 障害物を乗り越えて発臭源(要救助者が潜む場所の上)に辿りつき咆哮告知(バークアラート)
チャンスの捜索⑪(発見咆哮)★

 別の捜索犬1頭に確認させるため、呼び戻す(危険箇所回避誘導)
チャンスの捜索⑰(障害物多し)★

 2頭目の確認捜索 
ミューズの捜索⑪(発見)★

 2頭目も同地点ポイントで明確に咆哮告知
ミューズの捜索⑧(障害物多し)★

 レスキュー隊が入り救出救助
特救隊救出救助作業②


 以上の流れで捜索と救助の連携訓練を行ないました。捜索犬とそのハンドラーにとっては、擬似現場捜索経験を深め、それぞれに得るものの多い訓練となりました。
 消防救助関係者には、捜索犬の使い方、作業能力や効果を知ってもらう良い機会になったと思いますが、救出訓練は… ちょっと物足りなかったのでは… と感じています。
瓦礫捜索訓練 再び Ⅰ

瓦礫捜索訓練 再び   


 2月17日、目黒区東山にある古い住宅の解体現場をお借りし、瓦礫捜索訓練を行ないました。今回は地元の目黒消防署特別救助隊(レスキュー隊)も参加し、合同訓練を実施することができました。
 連携した訓練としては、いわゆる災害救助犬参加型の防災訓練がありますが、それらは見せるための演技演出としてのデモンストレーションの色合いが濃く、「犬の嗅覚を能動的に使った捜索」訓練になっているものは皆無といえます。
 したがって、実現場に近い環境下での犬の捜索訓練に続く救助隊との連携した訓練として、解体瓦礫を使った「犬による瓦礫内行方不明者(要救助者)捜索」→「要救助者の発見」→「救出救助」という流れの今回は、捜索犬関係者にとっても、救助関係者にとっても価値ある実践的な訓練として良い機会となりました。


準備訓練(捜索犬の意識付け) 

 捜索犬の訓練を始める場合に私たちがよく行なう訓練は、難しく結果のすぐ出ないような目的の作業をさせる前に、期待感や達成感を持たせるための比較的簡易な意識付け訓練を行なうのが普通です。瓦礫環境に慣れさせ、探そうとする意欲を目覚めさせます。
 
 臭いを感じ、探り、その臭いの場(ヘルパーのいる場所)へ行くのにあまり困難を要しないようなところにヘルパーが潜み、犬に探し当てさせます。
チャンス捜索移動

 交代で複数の犬に捜索をさせ発見告知させ、捜索する犬に作業意識と達成感を与えます。
橋本&リベロの捜索



レスキュー隊との連携  

 午前中、瓦礫の中の隠れられそうな場所を探し、消防署員が要救助者役になって隠れてもらい、周囲を瓦礫や障害物で囲い、姿が見えないように隠しました。
瓦礫の中に消防の人が隠れる

 犬は隠れたところから漏れ出す人(要救助者)の臭いを探し、反応し、告知(バークアラート)し、要救助者の臭いが漏れ出すポイントを特定します。捜索犬が反応したポイントが確かなものか、誤りがないかを確認するために複数の捜索犬がいる場合は、絞られたポイント周辺に別の捜索犬に作業させて再度反応をみるようにします。
 複数の犬が発見告知の反応をすれば、そのポイントの瓦礫下(もしくはその奥)に人が埋まっている(閉じ込められている)という確率がより高くなります。
 現実の被災瓦礫は、それぞれ状況も環境も異なり、臭いが簡単にとれるとは限らず、さまざまな異臭や誤認臭の存在も考えられます。通常の訓練とは比較にならないほどの困難な状況も考えておかなくてはなりませんが、冷静に観察し、丁寧に捜索させ、慎重に反応を見極めて、発見に結びつけられる作業を心掛けなければなりません。
Dsc00041 岡澤&あんずの捜索

救助作業地へ入るリベロ

 今回は2頭による捜索発見~確認作業を行なったあと、レスキュー隊に救出救助を要請するという流れで進みました。
特救隊による救出作業①

 午後は場所を変え、より難しい設定を考え、捜索~救助連携の合同訓練を行ないました。

続きはまた。
 























スライス積雪
スライス積雪


 先日の雪崩講習会で、積雪層を薄くスライスして光で透き通って見えるようにしてみました。雪の粒子の状態や層の密度の違いによる層を観察することができます。
 明るいところは密度が小さく光を通しやすく、暗いところは密度が高く光を通しにくいためにこのような縞模様が現れています。

スライス積雪層①
 バックに宝剣山塊を入れて写してみました。
スライス積雪層と宝剣山塊②

 深さ40cm以上の積雪層からスノーソーを使って厚さ1~2cm程度の薄い板状に削っていくのはけっこう難しく、出来かけた直後の風に吹かれて何度も壊されてしまいました。
全国雪崩講習会 Ⅱ 雪の結晶
中央登山学校 全国雪崩講習会 Ⅱ 雪の結晶


 標高2600~2700mの千畳敷周辺では、気象条件にもよりますがいろいろな雪が観察できます。今回観察し、写真に収めることのできたいくつかを紹介します。


新雪の中から

 新雪とは、空から降ってきた雪の結晶がそのまま(あるいはその一部)積もっている状態の部分を言いますが、氷点下の世界の中でも時間とともに新雪は「新雪でなくなって」いきます。したがって、降って間もない間に観察できれば、美しい千差万別の結晶を見ることができます。

 下の写真はあまりうまく撮れていませんが、「広幅六花」という形の結晶が重なりあっている新雪の様子です。平べったく、薄いガラス板のような面が6枚の花びらのような形になっています。この表面に小さなプツプツ(雲の粒が凍りついたもの)がついていないので、「雲粒(うんりゅう)なし広幅六花」と呼ばれます。この写真は、円柱テストで上の新雪層がずれて剥がれた境目にあったものです。
円柱テストの剥離面に見られた雲粒なし広幅六花の結晶★


 若林先生が新雪をサンプリングして実体顕微鏡にセット、その中から興味ある結晶を見せてくれました。デジカメでうまくピントを合わせて撮影することができました。

矢車のような鼓型の結晶
顕微鏡で見た結晶 ③の一部(矢車のよな鼓型)

大きな雪印型結晶の一部と小さな鼓型結晶
顕微鏡で見た結晶 ⑩の一部(大きな雪印と小さな鼓型)

六花型結晶の先に枝のなごりが見えます
顕微鏡で見た結晶 ⑫の一部より

六花型結晶の芯となるような小さな六角結晶と左に変形六角の氷が・・・
顕微鏡を覗いた様子⑱の一部より



積雪層の中に生まれる「しもざらめ雪」 

 氷点下の世界の積もった雪の中で、下と上との温度差からそれまでと全く違った雪に変化してしまう場合があります。それが霜(しも)ざらめ雪と呼ばれる雪で、雪の中で生まれた霜の結晶で、サラサラとまさにザラメのような、にぎってもまったく固まらないもろい層をつくります。

 雪庇を観察した稜線近くの風上側で、積雪の浅い這松帯付近でたくさん見られます。昼は陽を浴びつづけ、夜は放射冷却でぐんぐん冷え、地面付近と雪面付近の温度差が大きく、このような場所は、降り積もった雪が普通の「しまり雪」とはならずに「しもざらめ雪」に変わっていきます。
 下の写真には、這松付近に積もった雪のほとんどがシモザラメ化してしまっている様子が写っています。
這松付近に成長したしもざらめ雪の様子④★

 手にとってみると、サラサラのザラメ状態で、ルーペを用いなくてもシモザラメ雪としての特徴である角張ったガラスのコップのような、また筋の入った状態が見て取れるほど大きな結晶に成長していることがわかります。
手袋に乗せたしもざらめ雪(大きな結晶)

 

全国雪崩講習会 Ⅰ
中央登山学校 全国雪崩講習会 Ⅰ


 今回の雪崩講習会の最中に千畳敷での雪崩事故が現実に起こってしまいましたが、本講習会は、「どうすれば雪崩に遭わないで済むか」「万一雪崩に遭ってしまったらどう生還するか」等について、科学的な知識と現実的な対処を学んでもらい、起こった事故は大きな教訓として今後の雪崩事故防止のために役立て、「仕方ない」という運命論的な考え方を排除し、危機管理意識を高めるための啓蒙活動でもあります。
 
 現在は、基礎(基本)~理論(中級)~実践(上級)というクラスの流れで、雪崩の怖さ、しくみ、危険回避、より安全な行動へと高めるために、車の運転でよく言われる「だろう」運転から「かも知れない」運転へと同じような意識の改革、雪崩に対する正しい知識の取得と雪崩回避のための正確な情報の収集を目指します。

 中級クラス担当の講師陣は、2月8日は講師研修の日として入山、明日からの講習に備えて積雪の状態、雪質のチェック、ルートの選定などを行い、また雪庇観察のための雪庇の切り出しや、観察時の安全を確保するためのロープのフィックスなどを行いました。
 積雪深は、ホテル前で 340cmですが、場所によって風の影響を大きく受け、吹飛ばされて浅くなったり吹き溜まって厚くなったりしています。しかし、全体的には、例年にない大雪で山全体が雪をたっぷりと纏っているような状態で、条件が整えば雪崩れてもおかしくない場所がいたるところにある、という状況でした。


残照を浴びる宝剣稜線⑥★

 8日は終日好天に恵まれ、ホテルの窓からは宝剣稜線への美しい残照が見られました。
 9日は昼前までは時々陽も差しましたが、急速に崩れ、午後は降雪に見まわれ始めました。午前中は積雪の断面観察を行い、午後は雪と地吹雪の中で雪庇の観察を行いました。
積雪層断面観察(川田先生の解説)③

 深さ2m以上のピットを掘り出し、積雪層の状態がどのようになっているか調べます。通常の雪用のスコップでは歯が立たないような顕著な氷板~固まったザラメ層が見られ、1月12日の暖気と雨~みぞれによる仕業と推察されました。積雪の状態、雪質については富山大学の川田先生に解説して頂きました。
 積もった雪の中には、過去の気象の記憶が残されています。雪崩が起きやすいか、安定しているかなど、積雪層の状態を、入山までの気象を知ることによりある程度読み取ることが可能です。

 下図は、昨年12月から本講習会までの千畳敷ホテル前の気温変化と積雪(深)の様子をグラフにしたものです。グラディエーションのかかっているグラフが積雪深の変化で、線は積雪層の中に現れる層変化(筋)をイメージして書き込んだものです。
 過去の気象変化(冬型~冬型が緩む~低気圧の東進~冬型)という流れで気温の上下がある程度周期をもって起こっていることも表しています。厳冬期の気温変化では、気温が上昇するときは低気圧の接近、急下降するときは低気圧が東に去って発達し冬型が強まる、というのが一般的なパターンと言えます。
千畳敷ホテル前の気温と積雪グラフより

 中央アルプスのこの辺りは、冬型で多くの降雪がある日本海側山域、北アルプス、上越などとは異なり、積雪のほとんどは低気圧性のもので、この冬雪が多いのも、南岸を含む多くの低気圧が発生、通過したことを物語っています。

 午後は積雪の不安定度を見る弱層テスト(円柱テスト)をしながら、神社から西側に続く支稜を上がり、雪庇観察地点に移動し、アルプス雪崩研究所の若林先生に解説して頂きました。
 今年の雪庇は例年になく分厚く育っていて、成長過程の複雑な層構造も種々観察できました。


雪庇観察(今年の雪庇は厚い)

雪庇観察(若林先生の解説)⑧★

 
 10日は、円柱テストやショベルコンプレッションテストの技術を磨き、またより詳しい積雪断面観察、そしてビーコン捜索訓練などを行いました。降雪をもたらした低気圧は東に去り、天気の回復は早まりましたが午前中は猛烈な風にさらされ続けました。
 最終日の11日は好天下、早朝の6時から9時まで、早朝の積雪観察とビーコン複数捜索を行い、講習の全てを修了しました。

積雪層の観察を終えたあとのピットを利用してのスクラムジャンプテスト
スクラムジャンプテスト⑥★

円柱テストの練習をする受講生と雪を観察する若林先生
円柱テストする受講生と観察中の若林先生

ビーコンによる擬似遭難者捜索訓練
ビーコン捜索訓練模様④

雪崩遭難事故に遭遇
中ア宝剣千畳敷の雪崩遭難事故


 2月8日から11日にかけて、例年参加している中央登山学校全国雪崩講習会のため、中央アルプスの千畳敷に滞在しました。私の担当は、雪崩に遭わないために雪と雪崩に関する正しい知識と基礎技術を伝えるためのクラスで、連日雪に触れ続けます。
 講習会初日の9日は、低気圧が近づき天気は下り坂で、午前中は日差しもありましたが昼前から雪が降り始め、気温も下がり視界も急激に悪くなっていきました。

 初日の講習を終え、宿に戻った夕方の4時頃、昼過ぎに出た登山者が戻らないという情報が入っていました。明らかな悪天でさらに降雪が強くなると分かっている中、登山補導員の制止を振り切って出ていったそうです。千畳敷周辺から宝剣に続く山肌には例年になく多い雪が付いているだけでなく、新たな降雪で雪崩がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況になっていました。
雪庇観察のために移動②★


 午後5時前くらいに遭難者からの情報が携帯を通じて届きました。詳しい状況はなかなか伝わってきませんが、6名で出発したパーティ中後続の3名が宝剣岳と伊那前山の間にある和合山下の逆三角形状ルンゼあたりで雪崩に巻き込まれ、1名がケガをしているという内容です。それからしばらく後、ケガした者は死亡、2名が下山しているらしい、という内容に変わりました。

 雪崩講習会には山岳救助に精通した者も多くいます。どのような対応が可能か慎重な検討がなされていましたが、暗くなった千畳敷カール内に遭難者のものと見られるヘッドランプの明りが見えたため、収容を目的とした救助隊が急遽編成され出動することになりました。

 外はかなりの雪が降りしきり、下降ルート周辺部では雪崩発生の危険が続いていてます。ホテルの窓からは、下山中の遭難登山者が放つヘッデンの僅かな明りが見え隠れするのがわかりました。そのまもなく後、ホテルが照らす明りの先の斜面を粉状の雪が早い流れとなってサーっと落ちて行くのを目にしました。18時35分頃、目の前を雪崩が流れた瞬間の出来事でした。幾人かの人も目撃し、ホテルから緊急アナウンスが外のスピーカーを通じて「雪崩が発生している、左の方へ迂回せよ」といった内容が遭難登山者に向けられました。この音声は室内にも大きく響き、緊張が高まりました。

 救助隊に雪崩という不安を感じさせる状況がしばらく続きましたが、ほどなく下山してくる2名の登山者と合流することができ、その後逐次無線を使って情報が入り、遭難登山者の自力歩行をサポートしながらホテルまで無事誘導させることができました。

 ホテル内では、遭難登山者が低体温症の場合に備えて、我々関係者が慎重に対応し、必要な処置を施し、危機的状況は去りました。

 

回収できない悲愴

 亡くなった方は、雪崩で流され岩に接触し頭部損傷と出血が原因らしいことが伝えられていましたが、その場所は地形的に見ても雪崩の集中する場所で、雪崩の堆積地(デブリ)となっています。多量の降雪があり、雪質が安定しない間は非常に危険な状況下にあります。

 遭難の翌日、天気は急速に回復しましたが、午前中は非常に強い風が吹き続け、ヘリによる救出(回収)ができるような状態ではありませんでした。
強風下の円柱テスト(吹きすさぶ地吹雪)⑤★

 それでも、県の防災へりは朝の8時半頃に強風をぬうようにやってきて、救助隊員を千畳敷カール下に運び上げました。
強風下、雪面へ近づくヘリ②から飛び降りる救助隊員★

隊員を跳び下ろさせるヘリ①★

 しかし、この日は雪も空も状態が悪過ぎ、回収作業はされずに、状況把握と偵察だけに終わり、翌日の回収作業に備えるだけとなり、遭難者はさらにもう1日雪の中に置かれることになりました。


遭難事故二日目の遺体回収 

 11日は朝から晴天に恵まれ、風も弱く、陽があたる前の午前6時15分、ホテル近傍の気温は-10.8℃でしたが、雪面の温度は-18.9℃と顕著な放射冷却現象を示していました。
 山岳救助隊関係者は7時すぎから活動を始め、ヘリと降下隊員が行う遭難者回収地点に近い安全地帯にサポート隊を配置、回収時の万一に備えた態勢をつくりあげていきます。
遭難者回収のための準備(山岳救助隊による弱層テストなど)

 サポート地点へのアプローチの雪の状態をチェック(弱層テスト)している様子。このあと、ヘリのために斜面途中に吹流しが設置されました。
 遺体回収地点とサポート隊の位置は以下のようになっています。
遺体回収を終えて(遭難地点とサポート隊地点)★のコピー

指揮隊長はホテル前からサポート隊と無線でやりとりを行っています。
救助隊指揮関係者及びホテル周辺の様子①

 午前10時前、ヘリから回収のための救助隊員が3名順次降下し、遭難遺体が掘出され、ハーネスがとりつけられピックアップへと作業が進みました。ヘリのダウンウォッシュで周辺の新雪は吹飛ばされ、ローターの轟音がカール全体に響き渡りますが、ヘリの刺激でどこかの斜面が雪崩れるというような現象はありません。
ヘリから遭難地点へ救助隊1名降下②★

ヘリから降下した回収隊員3名による作業模様遠望①★


 こうして、遭難者の遺体は回収され、救助関係者も無事任務を終了することができました。

 しかし、雪崩に遭わないための知識と技術を普及させるための講習会を行っている私たちにとって、このような講習会を知らず、天気の悪いことを知りながら危険な場所に入って行ってしまう登山者のいることは残念で仕方がありません。

 悲惨な現実に遭遇し、雪崩教育の普及とその必要性をあらためて強く感じています。 
 


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