29~30日、谷川岳へ雪中捜索訓練に行ってきました。今回は、年末に行なった訓練と同様、普段瓦礫や林間地で捜索犬の訓練を行なっている皆さんを誘っての訓練で、「犬に楽しく面白く」、かつ「人(ハンドラー)にとっても楽しく勉強になる」ものを目指したもので、2004年の春から続けています。
今回の参加者は10人、犬10頭で、楽しくにぎやかに雪中(訓練+体験+レクリエーション)することができました。
山は春山の残雪期状態で、冬山の厳しさから開放されて気温もさほど低くなく、雪は湿雪状態であまり良いコンディションとは言えませんが、訓練するための雪の量は豊富で問題ありませんでした。
3月29日 小雪の中で
3月29日の未明に東京方面を出発、関越道高坂SAで全員合流して、谷川岳の麓「土合」に向いました。水上ではみぞれまじりの小雨模様。山の斜面を見ると、高い位置では白くなっていて、高度が上がれば雪になっていることが見て取れました。
土合周辺では小雪模様となりましたが、積雪量は少なく、除雪されたところはうっすらと雪がある程度。昨年末に訓練した駅周辺で、雪中捜索ウォーミングアップ訓練をしました。
「犬が楽しく」が一番
今回初参加、寒さ(冷たさ)に負けず「チャレンジ!」
電車でやってきたMシュナウザーを迎えに地下ホームへ
再び400段以上の階段を…。ロープウェイ駅に移動してゴンドラで天神平へ。
天神平スキー場から、林間の安全地帯を選んで、再び簡易な捜索訓練を行なったあとに、雪穴に潜りこんだ埋没者役の捜索を開始。
黒ラブMの捜索
黒ラブBの捜索
黒ラブCの捜索
黄ラブLの捜索
Mシュナウザーの捜索(こびり着く雪は苦手・・・)
チャンスの捜索
訓練を終えてゴンドラへ。黒ラブが5頭!
明日30日の天気は今日より良さそう。
東京周辺では桜が咲き始めました。しかし、山々はまだ冬の装いを脱いでいません。
それでも、北陸や上越の豪雪地帯では低い山々から次第に雪が消えていきます。
雪解けとともに雪で押しつぶされた枯野が顔を出します。雪がなくなると同時にフキノトウやカタクリが一斉に顔を出し、競う合うように花をつけ、一面カタクリに覆われる場所が北陸や上越の里山に多くあります。
そこに春の女神が訪れます。
春の女神… ギフチョウと呼ばれる春一番に目覚め、顔を出す可憐な蝶です。その昔、そんな春の女神に会いたくて何度も訪れたことがあります。そのとき出会った春の女神の写真を紹介します。
雪解け跡に咲くカタクリの花にとまった「春の女神」(ギフチョウ)
2日間の雪崩レスキュー訓練に捜索犬として参加し、無事役割を終了することができました。
チャンスにとってもハンドラーにとっても、標高 2,600m付近での深雪捜索&救助訓練は良い経験になりました。
「付着」「残留」多臭の中の、雪中から漏れ出す「新鮮」「生体」微臭をとらえて、探し出す訓練はこれからも機会あるごとに深めていく必要がありますが、探すことが「好きでたまらない」チャンスにとっては… 多分、「体験すりゃ~どうってことないサ!」と思っているかも知れません。
いつも快適な泊まりを提供してくれる標高 2,600mに建つホテル千畳敷
チャンスの部屋は「雪崩犬特別室」です。
ホテルからは、ケーブルでバス乗り場のある「しらび平」へ下ります。この時期、ゴンドラからは、谷間で発生した雪崩の跡があちこちに見られます。
ゴンドラの窓から見る中御所谷悪沢方面の雪崩跡。氷河のように谷を削って流れています。
支尾根斜面に見られる面発生表層雪崩跡
谷間に雪崩れこんだ小規模な雪崩跡(デブリ)
危険な谷間を眼下に見るも… ゴンドラの中は別天地
しらび平でバスの到着を待ちました。
菅の平駐車場までバスに乗って約30分。
皆さん、お疲れ様でした。
雪崩遭難捜索 シュミレーション (3)
16日の午後に行った3つ目の捜索救助シュミレーションは、雪崩事故に遭ったパーティーでの自力捜索救助が不可能、という設定で、外部救助隊への要請をし、その隊員の協力で捜索救助活動をするというものです。
そして、1人を発見救出、収容、梱包という救助活動を進めるも、もう1人の埋没行方不明者発見ができない状況下、到着した雪崩救助犬に捜索を依頼、発見させて救出… といったシュミレーション訓練が行なわれました。

救助隊パーティー役と雪崩事故状況設定内容を確認し、捜索シュミレーションへ。
雪崩事故による2名の埋没者捜索及び救出活動が行なわれます。
救出した埋没者を収容、シート梱包、搬送へ必要な処置を進めていきます。
手前はシート梱包、搬送するための処置を済ませたダミー人形。右斜面下方で待機するチャンス。
雪崩捜索犬として現場到着したチャンスとハンドラー。埋没者捜索を始める前に、遭難状況や埋没範囲などについて確認。
救出隊員(スコップ隊)を後方につけて、捜索エリアへ向います。
埋没者がいると思われる捜索エリアに向って捜索開始。昨日の訓練で、チャンスの意識もより高まっていたようです。しかし、風向きは斜面下方と上方で異なり、複雑な状況を呈していただけでなく、雪中から上がってくる僅かな生体臭以上に、午前中から雪面、雪中と広範囲にたくさんの人の付着臭、残留臭いがたっぷり残っているはずです。
いかに、漏れ出す新鮮な臭いを察知し、嗅ぎ取ることができるか… チャンスにそれを経験させ会得させるしかありません。
このような状況は、臭いの乏しい瓦礫のポイント捜索、綿密捜索のように、「サガセ」ではなく、指示した周辺を「チェック!」とコマンドして、鼻を雪面につけさせ、嗅ぎ取らせるように意識させます。
前半は広範囲に動き回っていたチャンスも、次第に「捕るべき臭い」をより強く意識するようになり、新鮮な臭いを見出してくれたようです。
何度か気になる雪面を行き来したあと、雪面に鼻をつけて確かめ、スクラッチ動作を始めました。
確信がもてるようになったか、深く掘り起し、吠え始めました。
写真には収められていませんいませんが、私は吠えて掘り起こしているチャンスの脇に行き、一緒に掘り起こす動作を交えて褒めてやりました。
近くに待機していた掘り出し隊員役に、埋没者救出をお願いし、チャンスを移動、待機させました。
埋没者役、掘り起こされて無事救出、シュミレーション(3)を終了しました。
雪崩遭難初動捜索(セルフレスキュー)シュミレーション (2)
次ぎに行なった捜索救助シュミレーションは、雪崩事故に遭ってパーティーの1人が流され埋没して姿を消してしまい、残された者がどうしてよいかわからず呆然としているところへ、現場近くを通りかかった別パーティーが状況を把握し、捜索救助の指揮をとって、レスキュー活動をするというもの。

再び、埋没者役のビーコン装着人形が使われます。今度は、足をケガ(骨折)しているという想定の埋没者救出、搬送、収容という内容が加わり、人形の足にケガを示す「×」印をつけました。

結構深い穴の中に埋没者役として入ってもらいます。このあと、雪がかけられ、完全に埋められてしまいます。
埋没役(ビーコン装着人形)が埋められ、ふたたび雪崩現場がイメージ、再現されます。事故に遭ったパーティー(3人)が雪崩れた現場の脇に避難して、呆然としている状態を演じます。そこへ、雪崩には遭っていないが現場付近にいた別パーティーが遭難状況を知って、初動捜索救助活動を行なうというものです。
以下、その流れを写真で追います。
別パーティー(役)が雪崩跡の脇にたたずんでいる事故に遭ったパーティーのところへ行きます。
何があったのか、雪崩は何時発生し、どんな状況で何人の仲間を見失ったのか…等々、必要な情報を収集し、捜索救助活動は可能か、二次雪崩の危険性は? ケガ人は? 装備は? 状況を把握した上、役割分担を決めて、できるだけ早い埋没者発見救出へとつなげていきます。
消失点から最大傾斜に続くデブリに向って、遺留品なども参考に埋没範囲を大まかに絞り、ビーコンを使って埋没者の埋まっている箇所を絞りこみ、プローブ捜索に切替えます。
プローブによる特定、発見への捜索も、操作を的確に丁寧に行なう必要があります。
プローブにより発見と見なせる感触に至ったら、その部位を急いで掘り起していきます。深く埋まっているときは、スコップによる人的パワーが大きく影響し、雪の中から救出するためには、埋没者の脇を含めて十分大きな穴を掘り起こす必要があります。交代を含めて効率的に進めなければ、非情な時間がどんどん経っていきます。
身体の一部が確認されたら、丁寧にかつ迅速に、顔面部分を第一に掘り出し、気道の確保を行ない、呼吸していれば呼吸空間をつくり、掘り出しの雪がかからないように配慮して、身体回りをできるだけ早く掘り出して行きますが、シートなどて覆うことができるまでは雪を安易に取り除かず、外気に直接触れさせないようにします。
低体温症となっている埋没者をシートに載せ、シートで保温する段取りを進めていきます。
今回は骨折の手当てが必要という設定があり、途中から人形を生体に替えて、必要な処置を施していきました。添え木に何が使えるか、現場にある一番適したものを選び、クッション等を当てて固定します。
骨折処置のあとにうつ伏せ状態から仰向け状態にしましたが、骨折の痛みなどで出来ない場合を除いて救出時に仰向けにするべきとの見解が出ました。うつ伏せ状態から持ち上げて移動することが、要救助者にとっては苦痛を伴う可能性が高いためです。
ツエルトを利用したシート梱包。実際の梱包と搬送への段取りは午後のシュミレーションで行うことにしました。
シュミレーションを一通り終えたあと、このような骨折の場合の足の動かし方、固定の仕方について、「なるほど」と思うような的確で応用力に満ちた講義を講師から受けました。
以上、午前中の雪崩事故初動捜索シュミレーションを終えました。
16日の雪崩レスキュー訓練は、3つのシュミレーションが設定され、受講者は今までに習ってきた初動捜索(セルフレスキュー)を現場の状況に合わせて、パーティ内の自主的判断で必要な対策、処置を進めていく訓練です。

16日の朝 天気は良いのですが風が結構強く吹いています。今日のチャンスは午後までお休み。
雪崩遭難初動捜索(セルフレスキュー)シュミレーション (1)
登山中のパーティーの一部が雪崩に巻込まれ、残った者が自分達の力だけで捜索、救助するという初動捜索(セルフレスキュー)のシュミレーションが行なわれました。
雪崩現場を模して、雪崩に巻込まれて流され、埋没した地点付近にデブリをイメージした雪面をつくり、遭難者の消失地点から埋没地点までの間に、遺留品が置かれ、さらに、かろうじて半身だけ埋まって傷を負っている者が雪崩た脇に残されている… という状況がつくられました。
負傷者役には、頭部と顔面に傷が…。
半埋没者を掘り出し、このあと安全地帯へ移動させ、ケガの手当てを行ないす。
見張り役を立てたのち、消失点から下方のデブリに向って1人がビーコン捜索に移ります。
ビーコンにより埋没地点を絞り、プローブによって埋没者を発見。掘り出し作業に移ります。
掘り出し、救出し、低体温症に対する処置を施していきます。実際には、安全地帯に移送するまでが一区切りですが、シュミレーション(その1)はこれで終了。
このあと、状況から判断すべき流れや処置の方法に問題がなかったか等、意見が交換されました。
15~16日、長野県山岳レスキュー研究会の要請を受けて雪崩レスキュー訓練に行ってきました。
2月に行なわれた中央登山学校雪崩講習会と同じ中央アルプス宝剣岳千畳敷で行なわれましたが、今回はチャンスを連れて「捜索救助シュミレーション」訓練の一員としての参加です。
駒ヶ根高原からバスでゴンドラ駅のしらび平へ。チャンスのバス乗車は初めての体験です。
千畳敷は雪崩講習会で何度も訪れていますが、チャンスは初めてです。15日はド快晴でほとんど風もなく、空気も澄んで南アルプスの山並が綺麗に眺められました。
南アルプスの山並の向うに富士山の頭が見えます。右の山は塩見岳、左の山は農鳥岳。
新聞記者が雪中埋没体験
午後、取材に訪れた女性記者がカメラを抱えて雪中埋没体験をしました。
深さは1m以上です。雪洞様の空間に上半身だけ入り、下半身は直接雪に埋められます。安全を期してレスキュー関係者も無線機を持って入ります。
雪がかけられ、埋没者は身動きできなくなり、暗く狭い空間に閉じ込められていきます。
完全に埋められた状態になってから、ビーコンもプローブ(ゾンデ棒)もないような状況で埋没者を探す手法「スカッフ&コール」の訓練と体験が行なわれました。
捜索者が雪面を掻いて、雪中に向って一斉に「お~い」と大声で叫びます。その直後、雪面に耳を当て埋没者が反応して(声を出して)くれているかを確認します。埋没者からは無線機で様子を伝えてもらいます。どの位置で、どのくらいの距離(深さ)で聞こえたか、また埋没者の声が捜索者に聞こえたかなどを体験しました。
雪崩捜索犬による捜索と救出
次ぎは、チャンスによる埋没者捜索が行なわれました。
たくさんの人の臭いが付着した雪面の中、さらに厚さ1m以上の雪の奥から上がってくる埋没者のわずかな臭いを捉えられるか… チャンスにとっても、これほど「多臭」の中の「微臭」という条件での雪中捜索は初めてです。
捜索エリアは限られていますが、探し出すべき埋没者の臭いをすぐには捉えられず、幅広く探しまわりました。埋没付近で臭いを感じ、反応するも、今までの雪中訓練ほど簡単に特定するわけにはいきません。
ほぼ特定し、スクラッチ動作を繰り返します。しかし「微臭」のためか咆哮するまでには至りません。この動作は、以前北岳大樺沢雪渓での捜索で見られたものに似ています。臭いを感じとっていることは確かで、薄い臭いに対する反応の一つと見られます。
反応している雪面の雪をスコップで少し掘り起し、再度チェックさせるとさらに力強く掘り出す動作をし、咆哮するようになりました。感じる臭いが強くなり、「人(埋没者)がいる」と確信がもてるようになったようです。
15日に行なわれた雪崩レスキュー訓練と埋没体験の記事が翌日の朝刊に載りました。
埋没体験記事抜粋 :
訓練中に記者も、雪崩の中から助けてもらう体験をした。斜面を約2m掘ってから作った高さ約70cmの横穴に上半身を差し込んで寝転び、足に雪をかけてもらった。約2mの雪の重さがかかる足はまったく動かせない。
救助者のザッザッという足音は、体の真上に感じる。しかし真上から呼ぶ「おーい」の声は小さく、足先よりさらに遠くから聞こえる。一緒に埋まってくれた講師の大村道雄さんは、雪が音を吸収するからだと教えてくれた。
15分後、チャンスの鳴き声とスコップで掘る音。光が差し込み、チャンスの顔と青空が見えた。横穴で上半身の余裕はあり、訓練と分かっているので怖さは和らいだが、本当に埋まった時の息苦しさ、暗さ、重さを思うとぞっとする。
これまでに多くの山岳遭難者捜索に携わってきましたが、遭難してどこに行ってしまったかわからない登山者の捜索ほど困難を伴うものはありません。その最大の原因は「遭難したルート、エリアが絞れない」ことです。
出発点、登山ルート、目的地点等にその人の足取りが残されていたり、出合った人の情報があれば、遭難地点を絞ることができます。ところが、遭難して行方不明になった方の多くが、それらの情報を残してくれていないのです。
とくに共通することが、単独で出かけるのに自分が登る山やルートについて記した資料を家族に残してくれていないことです。いつまでも帰ってこないために、警察に捜索願いが出されるような状況になってはじめて、何の資料も残されていないことがわかるのです。
「何処どこに行って来る」「〇〇山に行って来る」程度の情報しか家族も知らされていないのです。
それでも、車で出かけた場合は、登山口に車が置かれたままになっていて、そこから登ったらしいことが分かりますが、何日の何時に出発したかはわかりません。また、どういう行程を考えていたか、複数のルートがある場合どれを辿ったか、ルートの先に幾つか違う山があればどこまで足を延ばしたかなど、推測の域をでない中で、いくつもの可能性を求めて捜索が始まります。
警察・消防関係者による人海捜索
このような状況の中で、いくつか考えられる登山道を登り、要所要所で「道迷い」の可能性を考え、「もしここで間違えたら・・・」と推論しながらまた幾つかのエリアを捜し歩きます。あるいは、尾根、沢、林道と続く可能性あるエリアを地図の上で塗りつぶしていくような捜索が行なわれます。
捜索初期にはヘリによる捜索が併行して行なわれる場合も多くあります。しかし、万一遭難者が動ける状況にあっても、上空から発見されるためには目立つ色の布を振ったり、木立を揺すったりしなければ見逃されてしまいます。発煙筒のように煙を出すことができれば、ヘリからの発見が容易になりますが、遭難者は通常そういった「手段」を知りませんので、ヘリが近くを飛んでいるとわかっていても自分の存在を知らせることができないで終わってしまうことも十分考えられます。さらに、樹林が深く、夏季のように葉が生い茂る状態の山では、上空からの捜索はより困難になります。
通常、このような警察や消防関係者による人海捜索とヘリによる捜索がしばらく行なわれますが、発見もしくは有力な手掛かりが掴めない場合、1週間ほどで打ちきりとなり、その後は有志の山岳関係者や私たち捜索犬に家族からの依頼が入ることになります。
しかし、この段階でも、捜索エリアが絞られたわけではなく、人海捜索で見落としそうなエリア、あるいはまだ確認されていないエリアなどを中心に捜索するしかありません。地図で詳しく調べ、道迷いや滑落等の起きやすい地点を再度調べ検討し、その周辺をチェックするなどしていきます。

(現地本部:捜索前の打合せ)
人による捜索と犬による捜索
警察や消防関係者の初期の捜索は、可能性のあるエリアを中心に、考えられる下降ルートや迷い込みそうな沢などをたくさんの人員で人海作戦的に、目視で探しまわりチェックして行きます。転落したり滑り落ちそうな場所も捜索の対象になります。
ところが、実際に現場に入ってみると、そのエリアの広さ、植生の強さ(樹木の量、熊笹やブッシュ濃さ)、急な傾斜や崩れやすい場所等々、地図の上では行動できそうに想像できても、「人の目」「人の脚力」だけで縦横無尽にチェックできるようなところはほとんどないのです。
落葉していて視界が比較的よい晩秋から春先までの捜索は「人の目」による視認も有効ですが、葉が茂ってくると視界は一気に悪くなり、歩き回る周辺しかチェックできません。こうなると、数十mほど離れたところに声を出せず、動けない遭難者がいても見逃してしまうことになります。人海によってくまなく探したようでも、現実の山中では「くまなく」はあり得ません。
そこで、「捜索犬の鼻」を使った捜索に期待が高まりす。犬の臭いに対する感知力は人の100万倍以上といわれ、臭いの種類によってはそのさらに10~100倍ということもあるようです。
では簡単に探せるのか… と聞かれれば、「それは捜索エリアが限定されていて、行動する上で大きな支障がなく、遭難者の風下に行くことができれば、人力で探し出すよりも少ない労力で早くに見つけられる可能性は高いでしょう」としか答えられません。
可能性のあるエリア周辺を臭い反応を見ながら捜索
犬による捜索も、決して簡単ではないのです。臭いを掴めれば、人よりもずっと早くに見つけ出すことは可能ですが、臭いを見出せなかったり、ごくたまにしか飛んで来ない臭いだけでは、犬もそう簡単に目的を果たせません。また、原野のように犬が縦横無尽に移動できるような理想的な場所はほとんどありません。
迷い込んだ可能性の高いエリアを風下から探し続けることができればヒットすることができても、臭いのとれない、もしくは渦や逆風でごくたまにしか臭いが来ない風上側から、しかも藪や岩等の障害物が多いエリア、あるいは急傾斜や深い沢で仕切られたりしていれば発見につなげることは至難の業です。さらに、下草が生い茂り、樹木に葉が密集してくれば空気の流れは極端に悪くなり、臭いの移動する条件はさらに悪くなります。
そして山の現実は厳しく、早期発見に至らなければ生存の可能性は低くなり、そして無くなります。厳冬期や雪中で冷蔵状態でない限り遺体は腐敗し、あるいは山の動物に食され骨となり、最終的には雨や土砂で流されたり埋まったりして、土に返る道を辿ります。
滑落・埋没等の可能性あるエリアも可能な限り探らせる
それでも・・・ 残された可能性を求めて、捜索活動が続きます。どこかにいることは確かなのですから…。たとえ生存の可能性が断ったとしても、家族にとっては発見し家に帰ってきてほしいという願いと気持ちを消すことはできません。
行方不明者が発見された例
単独登山等で情報の乏しい中遭難し、行方不明となった登山者が、自力で下山等した場合を除き、何回にも及ぶ捜索活動を経ても発見に至らず未解決のままになってしまう遭難事例は非常に多くあります。そのほとんどは、人知れず山の中で土に帰っていくと言われています。
山の捜索には、これまでに8箇所延べ20日以上携わってきましたが、犬による直接的な反応で手掛かりを得たのは1箇所(エリアの限られた雪崩埋没者捜索)のみで、それ以外は捜索時に関係者が別エリアで視認発見したもの1箇所、行方不明後数ヵ月以上経った後に捜索活動とは別に発見された例が3箇所、そして発見されないままとなっているのが3箇所でした。
実際の捜索には私以外にも多くの捜索犬が入っている場合があり、それでも発見率は上がっていません。前記したように、山というとてつもなく広く複雑な地勢の中で、遭難者がいないエリアを探し回っている確率の方が高いからです。
そしてまた、山の捜索は、基本的には通常の捜索犬訓練だけでは探せません。理由は、その活動が「登山活動」そのものであり、藪山登山や沢登り、バリエーション登山に近い行動も関わってくるからです。犬の関係者以前に、最低限普通の登山者程度の体力とバランス力が不可欠です。
もともと登山慣れした犬好きな人が、捜索犬づくりに興味をもって、山岳捜索犬を育ててほしいと日頃から願っているところです。
さて、先日遭難から1年2ヵ月経って行方不明者のご遺体(遺骨)の一部が発見されたという報が届きました。その遭難については、本ブログのリンク先「静岡の山と渓」に載っています。
この遭難者捜索には、3回(6日)ほど携わりましたが、その困難性を目の当たりに体験してきています。しかし、この度の発見により、遭難者の行動や遭難当時の状況が具体的にわかったため、これまでの捜索で推理した内容や実際の捜索活動についてあらためて検証、反省することができるようになりました。
そのあたりについては、後日記したいと思います。
それはさておき、長い間、数え切れないほどの山中捜索を続けてこられたご家族ご兄弟の苦労を思うとき、発見されたことは本当によかった!
ご冥福をお祈り申し上げます。