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山と瓦礫と捜索犬
山の中、雪の中、瓦礫の中、鼻を使って人を探す犬がいます。 そんな「捜索犬」活動の一端と興味ある自然現象及びとっておきの写真などを紹介します。
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山の行方不明者捜索は・・・
山岳遭難者捜索の難しさ


 これまでに多くの山岳遭難者捜索に携わってきましたが、遭難してどこに行ってしまったかわからない登山者の捜索ほど困難を伴うものはありません。その最大の原因は「遭難したルート、エリアが絞れない」ことです。

 出発点、登山ルート、目的地点等にその人の足取りが残されていたり、出合った人の情報があれば、遭難地点を絞ることができます。ところが、遭難して行方不明になった方の多くが、それらの情報を残してくれていないのです。
 とくに共通することが、単独で出かけるのに自分が登る山やルートについて記した資料を家族に残してくれていないことです。いつまでも帰ってこないために、警察に捜索願いが出されるような状況になってはじめて、何の資料も残されていないことがわかるのです。
 「何処どこに行って来る」「〇〇山に行って来る」程度の情報しか家族も知らされていないのです。

 それでも、車で出かけた場合は、登山口に車が置かれたままになっていて、そこから登ったらしいことが分かりますが、何日の何時に出発したかはわかりません。また、どういう行程を考えていたか、複数のルートがある場合どれを辿ったか、ルートの先に幾つか違う山があればどこまで足を延ばしたかなど、推測の域をでない中で、いくつもの可能性を求めて捜索が始まります。



警察・消防関係者による人海捜索

 このような状況の中で、いくつか考えられる登山道を登り、要所要所で「道迷い」の可能性を考え、「もしここで間違えたら・・・」と推論しながらまた幾つかのエリアを捜し歩きます。あるいは、尾根、沢、林道と続く可能性あるエリアを地図の上で塗りつぶしていくような捜索が行なわれます。
 捜索初期にはヘリによる捜索が併行して行なわれる場合も多くあります。しかし、万一遭難者が動ける状況にあっても、上空から発見されるためには目立つ色の布を振ったり、木立を揺すったりしなければ見逃されてしまいます。発煙筒のように煙を出すことができれば、ヘリからの発見が容易になりますが、遭難者は通常そういった「手段」を知りませんので、ヘリが近くを飛んでいるとわかっていても自分の存在を知らせることができないで終わってしまうことも十分考えられます。さらに、樹林が深く、夏季のように葉が生い茂る状態の山では、上空からの捜索はより困難になります。

 通常、このような警察や消防関係者による人海捜索とヘリによる捜索がしばらく行なわれますが、発見もしくは有力な手掛かりが掴めない場合、1週間ほどで打ちきりとなり、その後は有志の山岳関係者や私たち捜索犬に家族からの依頼が入ることになります。

 しかし、この段階でも、捜索エリアが絞られたわけではなく、人海捜索で見落としそうなエリア、あるいはまだ確認されていないエリアなどを中心に捜索するしかありません。地図で詳しく調べ、道迷いや滑落等の起きやすい地点を再度調べ検討し、その周辺をチェックするなどしていきます。

Dsc07912 朝の捜索打合せ(二王山Ⅰ)

(現地本部:捜索前の打合せ)


人による捜索と犬による捜索

 警察や消防関係者の初期の捜索は、可能性のあるエリアを中心に、考えられる下降ルートや迷い込みそうな沢などをたくさんの人員で人海作戦的に、目視で探しまわりチェックして行きます。転落したり滑り落ちそうな場所も捜索の対象になります。
 ところが、実際に現場に入ってみると、そのエリアの広さ、植生の強さ(樹木の量、熊笹やブッシュ濃さ)、急な傾斜や崩れやすい場所等々、地図の上では行動できそうに想像できても、「人の目」「人の脚力」だけで縦横無尽にチェックできるようなところはほとんどないのです。
 落葉していて視界が比較的よい晩秋から春先までの捜索は「人の目」による視認も有効ですが、葉が茂ってくると視界は一気に悪くなり、歩き回る周辺しかチェックできません。こうなると、数十mほど離れたところに声を出せず、動けない遭難者がいても見逃してしまうことになります。人海によってくまなく探したようでも、現実の山中では「くまなく」はあり得ません。
 
 そこで、「捜索犬の鼻」を使った捜索に期待が高まりす。犬の臭いに対する感知力は人の100万倍以上といわれ、臭いの種類によってはそのさらに10~100倍ということもあるようです。
 では簡単に探せるのか… と聞かれれば、「それは捜索エリアが限定されていて、行動する上で大きな支障がなく、遭難者の風下に行くことができれば、人力で探し出すよりも少ない労力で早くに見つけられる可能性は高いでしょう」としか答えられません。

Dsc07988 砂防ダム右岸の一角で臭いをとらす(チャンス)(二王山Ⅰ)
可能性のあるエリア周辺を臭い反応を見ながら捜索

 犬による捜索も、決して簡単ではないのです。臭いを掴めれば、人よりもずっと早くに見つけ出すことは可能ですが、臭いを見出せなかったり、ごくたまにしか飛んで来ない臭いだけでは、犬もそう簡単に目的を果たせません。また、原野のように犬が縦横無尽に移動できるような理想的な場所はほとんどありません。
 迷い込んだ可能性の高いエリアを風下から探し続けることができればヒットすることができても、臭いのとれない、もしくは渦や逆風でごくたまにしか臭いが来ない風上側から、しかも藪や岩等の障害物が多いエリア、あるいは急傾斜や深い沢で仕切られたりしていれば発見につなげることは至難の業です。さらに、下草が生い茂り、樹木に葉が密集してくれば空気の流れは極端に悪くなり、臭いの移動する条件はさらに悪くなります。
 そして山の現実は厳しく、早期発見に至らなければ生存の可能性は低くなり、そして無くなります。厳冬期や雪中で冷蔵状態でない限り遺体は腐敗し、あるいは山の動物に食され骨となり、最終的には雨や土砂で流されたり埋まったりして、土に返る道を辿ります。

Dsc08426 堆積倒木付近を捜索するチャンス(二王山Ⅱ)
滑落・埋没等の可能性あるエリアも可能な限り探らせる


 それでも・・・ 残された可能性を求めて、捜索活動が続きます。どこかにいることは確かなのですから…。たとえ生存の可能性が断ったとしても、家族にとっては発見し家に帰ってきてほしいという願いと気持ちを消すことはできません。
 
Dsc08033 県警車の前で(若山&チャンス)(二王山Ⅰ)


 
行方不明者が発見された例

 単独登山等で情報の乏しい中遭難し、行方不明となった登山者が、自力で下山等した場合を除き、何回にも及ぶ捜索活動を経ても発見に至らず未解決のままになってしまう遭難事例は非常に多くあります。そのほとんどは、人知れず山の中で土に帰っていくと言われています。
 
 山の捜索には、これまでに8箇所延べ20日以上携わってきましたが、犬による直接的な反応で手掛かりを得たのは1箇所(エリアの限られた雪崩埋没者捜索)のみで、それ以外は捜索時に関係者が別エリアで視認発見したもの1箇所、行方不明後数ヵ月以上経った後に捜索活動とは別に発見された例が3箇所、そして発見されないままとなっているのが3箇所でした。
 実際の捜索には私以外にも多くの捜索犬が入っている場合があり、それでも発見率は上がっていません。前記したように、山というとてつもなく広く複雑な地勢の中で、遭難者がいないエリアを探し回っている確率の方が高いからです。

 そしてまた、山の捜索は、基本的には通常の捜索犬訓練だけでは探せません。理由は、その活動が「登山活動」そのものであり、藪山登山や沢登り、バリエーション登山に近い行動も関わってくるからです。犬の関係者以前に、最低限普通の登山者程度の体力とバランス力が不可欠です。
 もともと登山慣れした犬好きな人が、捜索犬づくりに興味をもって、山岳捜索犬を育ててほしいと日頃から願っているところです。


 さて、先日遭難から1年2ヵ月経って行方不明者のご遺体(遺骨)の一部が発見されたという報が届きました。その遭難については、本ブログのリンク先「静岡の山と渓」に載っています。

 この遭難者捜索には、3回(6日)ほど携わりましたが、その困難性を目の当たりに体験してきています。しかし、この度の発見により、遭難者の行動や遭難当時の状況が具体的にわかったため、これまでの捜索で推理した内容や実際の捜索活動についてあらためて検証、反省することができるようになりました。
 そのあたりについては、後日記したいと思います。
 
 それはさておき、長い間、数え切れないほどの山中捜索を続けてこられたご家族ご兄弟の苦労を思うとき、発見されたことは本当によかった!
 ご冥福をお祈り申し上げます。



 

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