高い場所
捜索犬の捜索訓練の初期には、人が隠れる場所は一般に人の目の高さよりも下、あるいは地面や瓦礫の下など、犬の目線から見ても同等もしくはそれより下というと所になっています。
「鼻を使った」捜索に慣れてきた犬は、探すべき人の臭いが流れてくる方向を敏感にキャッチしながら、一生懸命その場所を見つけ出そうと動き回ります。
ところが、犬の探し回っている位置よりもだいぶ高い位置に隠れていると、その臭いは隠れている場所のすぐ下よりも、少し離れて、あるいはかなり離れた所に臭いの断片が飛んでくることが多々あります。
経験の少ない犬は、その臭いの出所がわからず、感じた周辺でウロウロして迷う表情をする場合がよく見られます。そういうときは、できるだけ自然に「気づかせる」ように配慮しながら、臭いの出ている箇所を犬にわからせてあげます。
たとえば、犬が臭いを感じているときに、タイミングよくその出所近くに「気を引かせる」手立てを講じるか、「チェック」意識の応用でハンドラーが犬の鼻をより臭いの強い位置に近付けさせるか、あるいは高いところに犬を登らせて臭いの出所(発臭源)へ直接近付けさせる等々で、上の方にも「人がいる」こと、またそこから臭いが出ていることを経験させてあげます。

小型犬の場合は、自分自身で臭いの出所に近づけないことも多いため、発臭源近くへ行けるように誘導してあげるのも一つの方法です。

隠れているすぐ近くまで辿りついて強く反応、告知
「上にも人がいる」「上からも臭いがくる」ことを経験した犬は、捜索中感じる臭いが「どこから来るのか」を、それまで以上に鼻を上の方に向けたりしながら、上下左右という立体的な嗅覚を駆使して探すようになっていきます。

右の塔の上の部屋の中の人の臭いが、右から左に流れる風の影響で、少し離れた倒壊家屋様の模擬瓦礫付近に流れ落ち、犬がその付近で臭いを感じている様子。

鼻をときどき上に上げながら周辺を探し回るうちに、臭いが上の方から来ていることをより明確に感じとるようになりました。

犬が上をかなり気にしているために、そこへ「行かせて」あげます。

上の隠れ部屋は、天上が穴だらけなので、犬が上から臭いをとろうとすれば十分特定できるはず… ですが、この犬の場合「状況的不安」が起こり告知できなくなりました。
今まで経験したことのない「高さ」と「周辺状況」がこの犬にストレスを与え、告知という基本動作ができなくなってしまったのです。
そこで、いったん降ろしてから前記のミニチュアシュナウザーと同様に、中間部で臭いをとらせて告知させる手法に変えました。
しかし… まだ不安がとれずに、騙し騙し吠えさせる「だまし告知」のみで終了。
その後、通常の簡易捜索発見をさせて、本来の「意欲的」告知で「楽しく」終了させてあげました。
訓練をしながら、その犬の弱い部分を発見したときは、そこで「強引」「強制的」手法は使わず、ランクを落として、簡単にできることで「自信を復活」させて次ぎにつなげるようにすることが大切です。
高い場所や足場の悪さが「状況的不安」を起こさせた上記の例では、捜索訓練とは別にそれを取り除くための馴致、強化訓練が求められます。
その課題を「なんなくクリア」できるようになれば、自信ある「より頼もしい」捜索が約束されます。
犬種もいろいろ
捜索犬の普段の訓練には、大型犬のジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバーの他、ちょっと珍しいスタンダードプードル、ニュージーランドハンタウェイ、そして中~小型犬のオーストラリアンシェパード、アメリカンコッカスパニエル、イングリッシュコッカスパニエル、そして、ミニチュアシュナウザー、ミニチュアダックスフンド、ミニチュアプードルなど多種多様な犬たちが参加しています。
犬種による先天的強弱はありますが、捜索に関する「眠れる素質」を秘めた犬たちはとても多く存在しています。狩猟に関わる品種改良で生まれた犬種たちは基本的にその素質を強く受け継いでいますが、そうでない犬たちにも、多かれ少なかれ遠い祖先の「生きるための本能」からくる狩猟欲、捜索欲といった素質の一部が遺伝子にインプットされています。
いろいろな犬種が、熱心な飼主の努力によって動物としての犬本来の「狩猟欲」「捜索欲」が開花して、捜索犬としての作業ができるようになっていく実例がたくさんあります。
ダックスフンドは、もともとヨーロッパ(ドイツ)で穴熊猟に使うために品種改良されて生まれた犬で、ミニチュア(M)ダックスも日本で流行っている「愛玩目的犬」とは相反し、作業欲のたいへん強い犬で、いろいろな作業を「教える」ことにより「喜んで」その作業をやってくれるようになります。
そして、「こんなにすごい能力があったの!」と知らない人が驚くほどの、捜索犬能力を発揮してくれます。

隠れている人の臭いを感じ、探し求めて果敢に行動するMダックス。

大型犬と違い、障害物をスムースに乗り越えたり能率よく移動することはできませんが、狭い空間を器用に移動できる能力を備えています。
イングリッシュコッカスパニエルも、もともと鳥猟の手伝い(回収)犬としてつくられた犬で、嗅覚に優れ作業欲のある犬種です。その「本能」を上手に目覚めさせれば… 捜索犬としての能力をいかんなく発揮し始めます。


上の写真のイングリッシュコッカは、捜索犬の訓練を始めてまだ半年ほどですが、嗅覚による捜索欲が開花、身軽な行動力を生かして足場の悪いところも躊躇することなく「人の臭いを探す」ことに夢中になれるようになりました。
ウエルシュコーギーは、捜索犬としてけっこう多く育っています。もともと「牛追い」の作業犬としてつくられていますが、好奇心が強くとても活動的で、捜索犬としての素質を強くもってる犬種の一つです。

作業欲を捜索欲につなげれば、しっかりと「人の臭い」を求めてくれます。
早いもので、つい先日まで話題になっていた「桜」の季節が過ぎ去り、草木は初夏の装いに少しずつ変化してきています。もちろん、今が桜、というところもありますが、東京周辺では晩春から初夏にかけての花々が目につくようになりました。
今日、多摩川の河川敷に沿って延びる多摩堤通りを走る機会があり、黄色い菜の花の類がたくさん咲いているのを目にしました。合間には、薄紫色の花も混ざっています。
そして、2年前の今頃を思い出し、懐かしくなりました。
実はその頃、河川敷で一斉に咲き誇っている多くの花々を目にして、歳を重ねている「ビンゴの写真を撮ってやろう!」とビンゴを連れ出して撮影に来たのです。
「もうそろそろ・・・かな~」という意識もあり、「こういった写真ももう撮れなくなるかもしれない…」と思いながらの撮影でした。


その後、河川敷でチャンスと一緒の写真を撮る機会はありましたが、自然をバックにした写真をたくさん撮り続けてきたビンゴにとって、やはりこれが最後の「ビンゴらしい」リバーサル写真になりました。
明日からゴールデンウィーク、雪に閉ざされていた山々が夏に向って大変身していく、まばゆい季節です。多くの岳人がその素晴らしい自然を体感、満喫しに山々に入ります。
その昔、先代ビンゴが現在のチャンスよりも少し若い頃… まだ、捜索犬活動を始めていないときに、そんな岳人に混じって、残雪の山にチャレンジしたことがありました。
そんな昔のビンゴのひと時をご覧ください。

雲上の雪原 …ビンゴは 亡くなるずっと前に天上のような雲の上の雪原に行ったことがありました。
天上に行くにはかなりの苦労が伴います。
一歩間違えれば… 地獄に行ける、かも。
「あ~幸せ~」と感じているのだと… 信じています。
岳人と登頂を喜びあいました。
すごい風に… 垂れ耳が羽ばたきます。
ロウソク(最近あまり使わないかも・・・)の灯火のテントの中で、犬(ビンゴ)と一緒に寝泊りします。
これらの経験全てが、その後の捜索犬活動に役立っていることは… 確かです。
障害物を乗り越えて
いろいろな足場を体験させて「慣れさせて」いくと、訓練で「捜索欲」が強くなった犬は、人の臭いを感じると、なんとかその近くへ辿りつこうと行動してくれます。もちろん、それを阻むいろいろな障害を乗り越えて…。
訓練用に、倒壊家屋の屋根下の部屋に閉じ込められた人がいる… という設定の模擬瓦礫がつくられました(下写真)。
その周辺を捜索犬に「サガセ」で作業させているところです。風は右から左に流れていますが、閉じ込められ役の人(ヘルパー)の臭いはいくつかの隙間から出ては左に流れ、周辺の障害物に阻まれ、滞ったり、あるいは新たな場所から漏れ出したりと、複雑に分散、拡散していきます。
犬はそれを感知して、「どこだろう?」といった感じで探し求めます。上は、屋根下右正面付近に「流れ出た臭い」あるいは「一時的に滞った臭い」を犬が感じているところですが、まだ「ここだ!」という特定ができていません。
気流の流れが強い(明確な風がある)と臭いの分散はより強く、不安定になり、こういった瓦礫では犬も迷いやすくなります。それでも、「この辺り」という意識が犬にあるので、「より明確な臭い」「自信のもてる臭い」のようなものを求めて、臭いを感じる周辺をあちこち移動して探しまわります。
このような状況で、足場の悪い中を「躊躇することなく」探し回ることができなければ、臭いの漏れ出ている場所(私は「発臭源」と呼んでいます)を見出すことができません。
また、こういった限られたエリアでの捜索には、「チェック」という意識が犬にできていると特定する作業に役立ちます。臭いの分散が激しいとき(風が強いとき)にも効果的です。
上の犬は、大型捜索犬の代表格Gシェパードですが、臭いを求めて不安定な瓦礫周辺を探し回ることにだいぶん慣れています。同時に、屋根の下の部屋から出ている臭いを感じ取っている様子が伺えます。
一般的に、ラブやゴールデンなどに比べると、シェパードは体型的に足場の悪いところが苦手な場合が多いのですが、捜索欲と作業欲が強ければ複雑な足場でもクリアできるようになっていきます。
もちろん、「熱いうちに打って」おけば、より確実で、慣れさせる苦労もすくなくて済みます。
いろいろと探し回り、このシェパードは捜索初期に感じた臭い付近に戻り、手前の障害物を乗り越えて、より臭いのはっきり出ている発臭源に辿りつきました。
発臭源近くに鼻をつけて嗅ぎ取る動作をして告知(アラート)してくれれば、Good!です。
この犬の場合、成功報酬は「ボール」でしたが、同時にハンドラーが「言葉でしっかり誉める」ことが犬の自信につながっていきます。
鉄は熱いうちに打て!

熱かった頃のビンゴ(左)とチャンス(右)
人の臭いを探し出すために、またその臭いに近づくために、捜索犬は訓練を通じてその行動を学んで行きます。
臭いが流れてくる方向や位置を鼻で感じ、そこを突きとめようとするときに、障害物があるのが普通です。障害物が、その犬にとって「苦手」だったり、「不安」を感じたりすると、行きたいと感じても障害物を避けてどうすることもできなかったり、あるいはその段階で意欲を減じて捜索を続けられなくなったり放棄してしまう場合があります。
また、せっかく臭いの強く出ている近くまでいっても、犬が「状況的不安」に陥って告知できなくなる場合が見られます。
こういった「捜索行動を減じる要因」を無くしていかない限り、実際的な捜索は不可能になってしまいます。そこで、捜索犬の訓練過程の中に、可能な限り、いろいろな障害物を犬に馴染ませ(馴致:じゅんち)ていきます。
理想的には「犬が得意になって」「楽しむくらい」でも「慎重性を忘れずに」です。
あらゆる障害物を物怖じせず、乗り越えようとする意識をもたせれば、結果、探し求める行動を強化させ、発見につなげる大きな力になるはずです。
捜索犬に育てようと考えている犬に対しては、種々の障害物を子犬のときから上手に体験、成功させていくと、将来「物怖じしない犬」に成長させることができます。先代ビンゴの経験を受けて、2代目チャンスにはそれを実践してきました。
以下は、5年ほど前のまだ「熱くて柔らかかった」頃のチャンスの模様です。
「何でもあり」の室内訓練(?) おだてて、褒めて、ご褒美あげて…
遊びながら、夢中にさせながら・・・ 楽しく、面白く!
欲しがらせて、励まして、喜ばせて・・・
興味をもたせて、また褒めて。
でも… 「お前にはまだ早い!」 捜索モデル犬
新しい世代の「熱い鉄」
足場が大きく動き、振動も起こるシーソーは、それを知らない犬にとっては「怖くて歩けない」ものでも、怖くなくて、面白い、楽しいという体験で教えてあげれば、自ら進んで登り、下っていけるようになっていきます。
乗っている台が揺れる、という体験も「熱いうち」に慣れさせれば、いろいろな場面で「不安なく」行動できるようになるはずです。
まだ熱くてやわらかい「捜索犬候補」たちも、普段の訓練の中でいろいろな経験を深めながら、足腰だけでなく「芯」まで強くなっていきます。
捜索救助犬の訓練は初歩犬からベテラン犬までいろいろありますが、捜索訓練の目的は「人を探すこと」にあるため、どんなところでも、鼻を駆使して「人の臭いを探し求め」、「感じたら」どこから流れてくるか、どこから出てくるか… を突きとめることができるようにするための訓練になります。
訓練の初歩は、すぐに見つけられるような簡単な場所に隠れて見つけさせ、褒めてご褒美を与えて、探すことが「楽しい」「おもしろい」ことを学ばせます。「サガセ」で探すことがわかってきたら、「期待」と「達成感」を深めさせながら、徐々に、より見つけ難い場所を探させ、鼻を使って探す「技」を磨いて行きます。
嗅覚と捜索欲、作業欲などの素質が高い犬(レトリバーやシープドッグ系統、あるいは人とともに狩の手伝いをするために品種改良されてきた犬種など)は、その能力を引き出す訓練を施していけば、捜索犬としての基本作業は比較的簡単に教えることができます。
それは、捜索という作業を会得させる訓練そのものが、犬の捜索本能や狩猟本能を目覚めさせ強化するものであり、「人が考えた人が求める理想の形」を目指した種々の訓練競技とは大きく異なり、形ではない「発見という結果」を追い求める訓練であり、犬にとっては「自然で」「やりがい」のある「ワクワク」する内容を秘めた訓練だからです。
臭いの強く出ているところで反応し吠えること
臭いを頼りに探して、見つけて(一番臭いを強く感じるところを見出し)、吠えてくれるようになれば瓦礫捜索犬の基礎はできあがります。それを犬に勘違い(一番臭いの強いところで吠えてもご褒美が出てこない… )させずに、比較的簡易にわからせる訓練があります。
それは、犬が臭いを感じ、一番強く「ここだ!」と思って吠えれば「そこから」ご褒美が出てくる方法です。以前、スイス救助犬協会のリンダ女史から教授されたアイデアを具体化したもので、まだ少し改良の余地はありますが、そんな仕組みの隠れ箱をつくって「犬に吠えるべき位置で吠えてもらう」訓練をしてみました。
箱の中には人(ヘルパー)が入っています。その人の臭いは、箱から漏れだし、そのときの風向きで箱のどちら側かに強く流れて行きます。この写真では、箱の左から右に風が流れていて、風下で犬が反応しています。
犬が「ここだ!」と感じれば元気よく吠え出します(バークアラート)。
このあと、箱に入っているヘルパーからご褒美が与えられますが、小さな窓や扉が付いていない限り通常の箱では、その出入り口からしか与えられません。出入り口が常に風下となっているとは限らないので、犬の吠えている場所(臭いを一番感じ取っている位置)からご褒美をあげられず、扉のところにくるように誘導してしまいます。
しかし、それでは、一番正しいことをしている犬にその行動を褒め、伝えることがうまくできません。
というわけで、上の箱は、いま吠えている一番近いところからご褒美をあげられるように工夫されています。
それは・・・ 何の事はない、箱下の臭いが出ているどこからでも出せるように箱底がない状態になっている…だけ。
写真のミニチュアプードルはまだ若い(2歳)ですが、捜索意識、意欲ともに高く、また学習能力もなかなかの優れものです。しかし、まだ多くを経験していないので、捜索救助犬として「被災現場で実際に直面する(かもしれない)あらゆる状況」に備えて、訓練を積み重ねることが必要です。
もちろん、それは全ての捜索救助犬について言えることですが… 「直面するかもしれない現実」を設定した訓練が意外とされていない、あるいは「できていない」と、私は時々感じています。
臭いを嗅ぎ取ろうとする意識を強化する
人の臭いを感じて「ここだ!」と吠えることができる犬でも、「感じた」場所で漠然と告知(アラート)する犬が多くいます。しかし、これだけでは以下の2つの理由で、捜索現場で問題を生じさせる恐れがあります。
(1) 犬の反応だけではポイントを絞れず、瓦礫を除去して救出するという救助作業に多くの労力と時間を必要とするかも知れません。これは、雪中埋没者の捜索と同様、埋没地点を絞りこめれば絞りこめるほど、掘り出す時間と労力が少なくて済むのと同じ理屈です。
(2) 犬は空気の流れ(気流)に乗った臭い(浮遊臭)を感じとって、よりはっきりとした臭いの流れてくるもとを探しだしていきますが、明確な臭いがあればそれを特定しようと行動します。しかし、人が埋まっている状態が深かったり、瓦礫や土砂が密に積み重なっていたら、素早い移動や興奮した状況では、漏れ出す「微臭」を捕えることができずに見逃す恐れがあります。
もし、強く感じる「浅い場所」や「隙間だらけの空間」に閉じ込められている人がいれば、その人の臭いを発見してくれますが、それよりはるかに少ない臭いしか出ない「深い場所」や「密度の高い瓦礫下」の人を見出すことができずに「見逃し」てしまうかもしれません。
これも、雪中深く埋まった人の臭い「微臭」を探し出すためには、鼻を雪面に近づけなければ特定できないことに似ています。
はっきりしない臭い、薄い臭いのような微臭を見逃さないためには、「丁寧に」「落ち着いて」「鼻を地面や壁近くに近付けて」嗅がせる意識と動作を犬に教える必要があります。
ハンドラーが手先などで示した付近に鼻をつけさせるような動作を犬に教えるには、クリッカーの使用が役立ちます。これは、ハンドラーが望む動作を犬がした瞬間「カチッ」と音を出して褒美を与えるやり方ですが、動作の読み取りと瞬時の音とご褒美という、ハンドラーやヘルパーの連携した機敏な動作が必要です。
何度か繰り返して、ハンドラーが求める(指示する)ポイントに鼻をつけられるようになったら、ご褒美の代りに「褒め言葉」で代用することができます。
そして、さらにそれが当たり前にできるようになり、最終的に「隠れた人の臭い」を発見させるという訓練を繰り返すことにより、犬は「鼻を近付ける」と「僅かな臭いも」よりはっきり嗅ぎ取れることを自ら学んでいってくれます。
上の写真は指示によって、隠れ箱に鼻をつけて嗅がせる訓練模様です。このときのコマンドは「サガセ」ではなく、「チェック!」という言葉を同時に発しています。
この箱の中に人は入っていませんが、「チェック」で鼻をつけたら褒めてあげています。
いくつかの箱をチェックさせ、最後は人(ヘルパー)の入っている箱で、鼻をつけて反応!「アラート」させてご褒美、成功させて終わらせます。
今後は、多くの訓練犬に、地面(瓦礫)等を丁寧に「嗅がせる」動作につなげられるようにしていきたいと思っています。
先代の捜索犬「ビンゴ」もいろいろな訓練と経験を積んで、かなりなことを「クリア」できるようになりました。
現役「チャンス」はそれに負けじと… 幼少の頃から「捜索犬」を目指していたため、ビンゴ以上にヤバイところも物怖じせずにクリアできるように育っていきました。
「こんなことあんなこと」写真シリーズを新設(?) して、そんな「ちょっと普通でない犬場面」を時々アップしてみますのでご覧ください。
まずはビンゴの… 網綱登り(?) から

犬もおだてりゃ… 登ります。が、もちろん基礎トレーニングは必要です。

チャンスもおだてると… 登りだします。

褒めるとますます… 得意になります。

ただし、調子にのるとズッコケます。

でも、すぐに立ち直り、何事もなかったかのように・・・ とぼけます。
30日は、出だしの天気が良くて、犬も?人も気分よく訓練を開始することができました。
アプローチ

再びゴンドラに乗って天神平へ。

写真では落ち着いて見えるのですが… 実は、落ち着かせること自体が大変。
昨日と同じ訓練会場?へ移動。昨年の2月や年末の訓練場所よりも、だいぶ下で、あっというまに着いてしまいました。

基礎訓練

深雪埋没者捜索訓練の前に、基本捜索訓練を行ないます。臭いをとって接近してきた犬を撮ってみました。ちょっとピンボケですが… かなりのインパクト。

基礎トレーニングなのに… 雪面を嗅ぎながら移動する「ショベル&ラッセル」Dogのチャンス。
深雪埋没役セット
3月の雪崩レスキュー訓練と同様の埋没設定を行なって、埋没役に上半身雪洞、下半身直接埋没の態勢をとってもらいました。
適宜、無線機で交信しあって、安全を確認しながら進めます。完全に埋めると、埋没者役の目の前は闇につつまれ、下半身は雪に埋まって身動きできない狭い僅かな空間に閉じ込められた状態になります。
※ 深雪埋没状態を設定するにあたっては、雪質判断、雪洞技術、低体温症対策、救出技術などに精通している者の管理が必要です。 10~30cmの雪をかぶせるといった浅い埋没設定を除いて、安易な真似事は絶対にしないようにしてください。また、閉所恐怖症やそれに近い精神状態に陥ると、呼吸空間が確保されていても重篤な状況を生じる場合があるので、事前の確認が必要です。
完全に埋まった状態で、雪上からの大声が埋没者に届くか、埋没者の声が雪上の人に聞こえるかの「スカッフ&コール」の体験をしてもらいました。
臭いを感じても、深雪から出てくる臭いは通常より薄いため「特定」しにくい状況になります。犬にそれを経験させながら、鼻を雪面に着けて嗅ぎ取ろうとする意識を育ててやります。
自ら気付くまで様子を見るか、ハンドラーが「気付かせる」手を打つか、判断は難しいですが、臭いを探し出そうとする本能をうまく引き出させることが大切です。この状態は、臭いが乏しい瓦礫捜索に似ていて、犬が自ら鼻を近付け、より明確な臭いを求める動作になれば good !です。
雪上では、微細な臭いを感じ取ってから、より強く確かめようとスクラッチしたり、掘り起こそうとする動作を繰り返せば、経験的に「そこに何かある」と判断して間違いないようです。
上の黒ラブは経験的には未熟ですが、臭いを感じとってから鼻を雪につけて、臭いの元を見つけ出そうとしています。ちょっとしたフォローで、本能的な能力が開花していきます。
臭いを感じるポイントを見出し、スクラッチし、掘り起して吠え、穴の中に潜りこみ、穴の中で吠える…チャンスの一連の動作を写真に収めてみました。
チャンスは、自分の身体が入りこんでしまうほどの深い穴を掘っていますが、深くに埋もれた埋没者役まで到達していません。
しかし… 上記動作に至るまで、チャンスは周辺を長く嗅ぎまわっていて、この場をすぐには特定しませんでした。「ここだ!」という反応、動作につなげるには、さらなる経験と達成感を積重ねていく必要がありそうです。
慎重性も大切ですが、雪中の場合は、「より早く」が重要です。
大きく開けられてしまった穴を塞ぎ、シーズンの黒ラブに訓練の最後を飾ってもらいました。
犬による捜索訓練を終えて、埋没者役を掘り出します。
埋没者役、無事生還。
雪中に約50分! お疲れ様でした!
犬の訓練はこれで全て終了。 さて次ぎは…。
29日と30日の天気
予想通り、30日の天気は昨日よりもずっと良くなりました。
出発前の駐車場にて。昨日うっすらとあった雪は完全になくなってしまいました。
でも… 下りに向っていることも事実で、この天気が長続きしないことが天気図から読めます。もちろん、予報ではちゃんととその流れをつかんでいて、数日前から今日の「下り坂」は発表されていました。
久々に天気図に現れている状態と谷川岳付近の天気の流れを調べてみました。(資料は気象庁より)
29日の午前9時と午後3時の天気図
昨日の29日は、南岸の低気圧が東へさりつつあり、本州中部は北に偏った移動性の高気圧が西からおおってきました。しかし、弱い冬型のような形で谷川岳周辺は小雪模様。雲を通して時々太陽の姿も見えていました(雲はあまり厚くなくて途切れ途切れにやってきているようです)。
30日の午前9時と午後3時の天気図
30日は、移動性の高気圧~高圧帯の影響で雲がなくなり、朝から良い天気になりましたが、九州の南西から低気圧が接近、徐々に天気が崩れてくることがわかります。 この低気圧… 実は、31日~4月1日と猛烈に発達して、北海道東南部に大雪をもたらしたものです。
さて、午前中は日差しも強く、「紫外線」と「雪焼け」に注意しなくては… といった好天で、暖かかったのですが、昼前から日差しがやや弱まってきました。
気がつけば、下り坂に現れる代表的雲「巻層雲」がいつもまにか空を覆い始めていました。
そして、訓練をひととおり終えた午後1時過ぎには、太陽の姿はどこかへ行ってしまい、雲の厚さも増し、高さもより低い「高層雲」にかわり、遠くの山々は霞んでいきました。
午後3時頃、天神峠からみた南東方向の山と雲の様子。
高倉山方面から見たの谷川岳(午後2時半頃)。全体曇っていますが、雲の底まだ谷川岳(1,963m)の上空で、明るい雲の薄い部分も混ざっています。
谷川岳の斜面に雪崩跡発見! 望遠で撮ってみました。
春山雪崩の代表「全層雪崩」の跡が荒々しく残っています。かなりの規模です。地図で場所を調べてみると、西黒沢の上部、標高 1,200~1,500mにかけての辺りと思われます。
冬山の面発生表層雪崩も怖いですが、これほどの全層雪崩にもし出遭ったら… ひとたまりもありません。
東京近郊では桜が満開を過ぎ、散りゆく姿になっていますが、標高を少し高めて、あるいは緯度を少し高めれば、満開前の桜に出会えます。また、先般ご覧頂いたような雪解けとともにカタクリやフキノトウが目を出し花を咲かせる雪国では、桜もこれから。
場所を変え、時を変えれば、4月は春の花でいっぱいの季節。
今回は「花に蝶」ならぬ「花に犬」の写真をご紹介します。
蕗(フキ)の花

フキノトウ… から、フキの花が咲き出します。
でも、ビンゴ… なんで濡れているのでしょう…。
まだ寒い季節でも… 水が好きな犬にとっては… 「入らないと!」気が済みません。

再びフキの花と対面

カタクリの花
なぜか・・・ 幸せそうな雰囲気を醸し出してくれます。
ヤマザクラ
山の春を演出するサクラです。遠くから見るとその演出力がわかります。
大きなヤマザクラはかなりの高木ですが、低い位置に咲いてくれるものもあります。
でも… やっぱり… 春らしい4月の代表格はソメイヨシノでしょうか。
4月はまだ始まったばかり。たくさんの花たちが出会いを待っています。