山の行方不明者捜索 山形Ⅸ
捜索2日目 29日(4) 発見現場へ
「WKさん、みつかりましたぁ…」
下流の林道から歩いてやってきた妹さんの震える声に、
「ほんと!」「どこで!」と慌てて聞くと、
「この下の方です・・・」
「どのあたりで!」
「この下の沢を上がったところです」
いくつかのやりとりをしながら急いで車に荷物を放り入れ、妹さんを乗せて沢の出合に向かいました。
「父と兄が見つけて…」「父は母のところに残って兄が下りてきて・・・ また母のところに戻りました」「姉が警察に向かってます」
「母はまだ生きているような肌をしていたそう…」
声をつまらせながら涙声で話してくれました。
発見できたことは「よかった」けれど、辛い現実が家族を苦しめます。
現場の沢を示されて、「えッ、この沢の上流で!」と心の中で思いました。
午前中、チャンスと二股まで入った沢だったからです。もちろん二股よりもずっと上流であることは確かです。
・・・臭いを捕らえられなかった。なぜか? それは後で検証したいと思います。
発見された沢の出合付近(ここから高度差150mほどの沢上流で発見されました)
現場への道
何をすべきか… 考えながら、沢の出合に対面する林道に車を止めました。
一番先に思い浮かべたことは、「今日は沢の中から運べないかも知れない」ということでした。時間は午後3時半を回っていたからです。時期的に日は長く、まだまだ夕闇が迫るというものではありませんでしたが、沢床からご遺体を運ぶのは無理だろうと思ったからです。
一晩過ごすかもしれないご遺体を保護できるようにシートを2枚ザックに詰め込み、ヘッドランプや発炎筒、小型ハンドスピーカーなどを用意しました。
また車載の無線機をONして操作法を妹さんに教え、時々交信をしながら沢に入ることにしました。これで、警察が来ても情報を伝達することが可能になります。
チャンスは車に乗せたまま連れて行きませんでした。15時45分車を離れて現場の沢に向かいました。二股の出合までは午前中歩いたところなので簡易にアプローチできましたが、その先に問題がありました。
二股から先、肝心の発見場所の支沢がどちらかわかりません。
2万5千分の1地図での情報は上図程度です。
そして、この選択には正直迷いました。
無線で「お兄さんから、どちら側の沢か聞いていませんか?」と妹さんに訪ねるも、「聞いてません」。涙声を抑えた妹さんが応答します。
このとき私は、5月20日の雨の降る中、遭難に至った行方不明者の足取りを強く意識していました。
それで、「雨でも行ける沢」をイメージしながら、まず右手(北側)の沢を遡ってみました。少し登ってみて、登りにくい状況になっていたので、「いやこっちじゃない・・・」と判断。
再び二股に戻り、左(南側)の沢を辿ってみました。するとまもなく小滝があり滑りやすい脇を巻く必要のあることがわかりました。「雨の中、こんな危なっかしいところを上がってはいかないだろう… 」と思いました。
「やはり北側の沢だ」と判断、再び二股に戻り、苛立つ気持ちを押し殺しながら右の支沢に入り、どんどん登って行きました。所々滑りやすく急で「こんなところを登ったのだろうか…」と疑問を持ちながらも、所々に踏み跡を発見し「ここで間違いない」と登り続けました。
無線交信しようと何度か発信しますが、応答がありません。
車載機なのでその近くに居てくれないと聞こえないのです。何度も何度も問いかけして、ようやく応答。私の位置を知らせるために一度発炎筒を焚きました。
「煙、見えますか」
「見えます」
「まだ着いてません、さらに登ります」
しかし、かなり登ってもお父さんと息子(お兄)さんの姿を発見できません。
標高635m付近、16時30分。ハンドマイクで上流に向かって「おーい」と叫んでも返事がありません。「逆の沢なのだろうか… 」確証のもてないまま標高655m付近まで息を切らせながら登り、再び「おーい」と叫びます。しかし反応がありません。
「やはりこの沢でない、ここより西の沢だ・・・」と思うようになり、沢をくだり下りはじめました。
救助ヘリの飛来
するとまもなく、上空にヘリがやってきて巡回を始めました。
ローターの爆音に混じり「木をゆすってくださ~い」とスピーカーで叫ぶ声が聞き取れました。
私は自分の位置を知らせるために、木をゆすり、発炎筒を焚き、ブルーシートを必死になって振ったりと、あらゆる行動をとりました。
下の駐車場に県警の隊員が到着し、「これからそちらに向かう」と連絡が入りました。
「ヘリは行方不明者のいる場所を確認できましたか」
「私のいる沢は小尾根を挟んだ反対側の沢です」・・・
しかし、ヘリのローター音が大きく、伝わったのか伝わっていないのかなかなかわかりにくい状態が続きました。 何度かの交信で、「ヘリに確認してみます」の返事。
こちらはアマチュア無線、警察経由でヘリへの交信と確認には時間がかかるようです。
ヘリは、私の方を気づいていたようですが、小尾根を挟んでホバリングを続け、ヘリから救助隊員がホイストを使って降下するのが見えました。
このときまで、私は自分の位置を完全に勘違いしていたのです。