捜索訓練キャンプ in 川上村 2009 Ⅱ
5月3日 その1
5月3日のお昼までには… メインサイトの周りを囲むように「捜索犬訓練キャンプ村」が完成。
捜索ウォーミングアップ!
初日は、お昼を食べて、早朝出の疲れを癒したあとに、軽い捜索基礎訓練を行いました。
基礎訓練はテントサイトからすぐのところでできるので、初心犬にも嬉しい!
ベテラン犬にも、斜面を使ってウォーミングアップ。
出す場所を変えて、足場環境、臭いのとれる位置などを変え、捜索意識を目覚めさせます。
真面目に、健気に! 作業するミニチュア・プードルとミニチュア・シュアウザー。
昨年参加したとき6ヶ月の若き姫でしたが、今年は1歳6ヶ月。パワーあふれる青年女子といったゴールデン。日々経験を積み重ねながら… 楽しく探し続けてくれます。
経験豊かなラブたちも、新しい現場で新たな経験に出合い、新鮮な感覚を磨いていきます。
若きGシェパードと黒ラブ。新鮮な場所で「意欲」と「達成感」を磨きます。
自主的、能動的行動にやや不慣れなGシェパードも、本来の捜索欲を掻き立てられながら捜索犬として成長していきます。
自分の順番が来るまで… 自重して待ち… 仕事が与えられれば… 本領発揮! それが理想です。
チャンスの動きを重ねてみました。上に移動してもすぐには臭いをとらえられません。
斜面を幅広く移動する間に、行方不明者役(ヘルパー)からの臭いをとらえて発見、咆哮。
ご褒美に「麻袋」をもらい、得意になって降りてきました。
昨年好評だった千曲川源流での捜索訓練キャンプ(in 川上村)を5月3~5日に行いました。
「もう一泊したい」という要望も多く、今回は2泊3日のキャンプを実施。
初日の3日は、大型連休&高速料金割引の渋滞を避けるべく中央道釈迦堂PAへ早朝5時に集合。韮崎から明野村~信州峠を経て川上村に入りました。

信州峠への途中、みずがき湖畔にて休憩(7:10~7:45)。車9台での山間道移動はキャラバン隊の様。
連休前半の安定した天気をもたらした帯状Hは去り、気圧の谷が接近。空を覆う雲も多くなってきました。

しかし、川上村に入ると日差しも出て、残雪の八ヶ岳東面の姿が望めました。
写真上は、主峰赤岳~横岳~硫黄岳の山並みです。
生鮮食材などを地元で仕入れるため、大きなスーパーに立寄りました。
しかし… 開店は9時。大分待つことになりました。
その間、近くの鯉のぼりと武者幟が目に入り…
昨年も川上村のあちらこちらで目にした立派な鯉のぼりや武者幟。今回は写真に収めることができました。
買出しを終えて千曲川沿いの道を東に進むと、たくさんの鯉のぼりが川をまたいで泳いでいました。
しかし、今年の季節の進み具合は昨年よりだいぶん早まっている様子。
昨年は満開だった桜の花が今年はほとんど終わっていて、美しい姿を目にすることができませんでした。
より標高の高いキャンプ地近くまで移動して、ようやく桜の花に出遭うことができました。
芽吹き始めた落葉松の中で・・・ キャンプメインサイトを設置。
天気もほどほどで、いよいよ… 訓練キャンプ開始です。
北アルプス抜戸岳雪崩遭難者捜索(北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び)の前日、4月29日に、第3回目となる解体中建物を利用した瓦礫捜索訓練(解体中建物を使用した捜索訓練)を行いました。

解体が進み、訓練として使用できる最後の機会となりました。
午前の訓練
午前中は建物の北東側半分の領域を使って、比較的簡易な場所に潜んだヘルパー(行方不明者役)を探す訓練を行いました。


見た目の隠れ場所は簡易でも、建物や瓦礫に囲われた中での気流の流れは複雑で、臭いで探す犬にとっては「簡易」とならない場合もでてきます。


ガラの山の上から瓦礫下に向けて探す設定も行いました。

チャンスを捜索させるときはいつも、捜索開始まで瓦礫の一角でじっと待たせる訓練も行っています。

一旦瓦礫山の上まで呼んで、下方へ向けて探させることをしました。
午後の捜索訓練
午後は、南西側半分(西~北側)の解体瓦礫と残された建物を利用して、悪い足場と複雑な臭い移動の中で、潜んだヘルパーを探す訓練を行いました。


臭いを感じて探り続けるGSとGR。写真で見ると、左下あたりに人が潜んでいるように見えますが実際には誰もいません。右の室内エリアから流れてくる臭いが「このあたり」に溜まるためです。何頭かの犬が同じように臭いを気にし、探り出すような行動を示していることと、気流の流れる方向からそれがわかります。
現実に、この動作があれば「この辺りが怪しい」と思えてしまうかもしれません。しかし、明確な「反応」には至りません。
臭いが複雑に移動、滞る構造の中では、犬が自主的に幅広く移動しないと絞り込めない場合が多くあります。
感じてはいるが「どこか?」、探り出す力は多くの経験によって培われていきます。
地下状態の瓦礫下からの臭いを感知して進むMダックス。
3月39日から延べ3日に及ぶ解体建物を利用した有意義で充実した瓦礫捜索訓練は、今回(4月29日)をもって無事終了しました。
捜索救助犬訓練に深い理解を示し、解体物件を提供くださいました町田市、町田市民病院、解体業関係者皆様に厚く御礼申し上げます。
北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び Ⅷ
4月30日の「?」(後日発見地点近傍での仕草)
4月30日の捜索については、北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び(2)及び北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び(3)で述べましたが、雪面での「もしや」という臭い反応は見い出せませんでした。
しかし、「?」と思える仕草や行動があったことは確かです。
チャンスの反応を見るために、捜索作業中は目を離さず見入るように観察を続けました。
同時に「反応」や「気になる行動」と時刻を客観的に記録するため、可能な限りカメラに収めるよう努めました。
前記掲載ブログと重複する写真もありますが、「何かを感じている?」ような仕草行動を時間を追って並べてみました。
写真上 667→668→669 時刻 10:17台
写真上 670→671 時刻 10:20
写真上 672→673 時刻 10:20
写真上 674→675 時刻 10:38
写真上 676→678→679 時刻 10:38
写真上 681→682 時刻 10:44
写真上 683→684→685 時刻 10:45
写真上 735→736 時刻 12:38、737→738 時刻 12:39
実際の行動は、上記大岩付近だけでなく、幅広いエリアを行き来していますが、やはり「気になる仕草」が多かったのは大岩周辺だったように記憶しています。
ところが、30日の捜索時、「気になる臭い」が「大岩周辺から」出ているのではなく、「消失点下部積雪」から出ているのではないか、という疑いを抱いてしまっていたのです。
写真の仕草、動作が北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び(7)に示したように、結果的には臭い流出のイメージのような「原因」からであっただろう… ということが頷けます。
ビデオによる記録と確認の必要性
捜索中の犬の「?」的な行動や、「ちょっとした仕草」「気になる行動」の中に重要な「答え」や「原因」の潜んでいることがある…。
今回の捜索では、示された「?」的な仕草、反応、行動を「目」でしっかり追い、その動作と周りの環境から的確に推理するためには、相当な経験と原因を分析するための「目」が必要である… と、あらためて感じました。
しかし… このような捜索自体に関わることは稀であり、現場の状況も個々に大きく異なることを考えれば、「客観的な目」と「見逃さない目」が絶対に必要かつ不可欠である!と感じ、それも大きな反省の一つであることを認識させられました。
客観的で「見逃さず」「再生できる」目とは、すなわち「捜索行動記録をビデオに」収めることです。
そして、「生の目」で観察して「?」と感じた場面を、その直後に行動や仕草を「再生」して客観的に「吟味」するのです。
もし、このようなチュックができたら… と後悔しています。
だがしかし、いつもザックに入れ行くビデオを今回に限って持って行きませんでした。
それは、前回(4月4~5日)の捜索が天気に恵まれず、ビデオを使用する上で大変煩わしい状態だったためでもありました。
後悔 先に立たず・・・。
5月1日の捜索初期(消失点下部での行動)
消失点下部の捜索初期、チャンスは谷側に「何かを感じ」、急な雪面を沢床まで一気に駆け下っていきました。(川側を気にするチャンス…何故? )
写真上 消失点下部の捜索では、沢に落ち込む崖縁近くのエリアから始めました。(7時50分)
写真上 崖縁エリア捜索をしばらく続けた後、指示等のない中で急に沢に向かう崖縁から下を気にする行動を起こしました。(7時57分)
まもなく、沢に向かって「何か」を目指すかのように、下って行き、姿が見えなくなりました。崖縁に向かい、沢を除くと、チャンスは沢近くの雪上にいました。(7時57分)
沢付近を覗いていると、こちらに向かって登ってきたため、「何を」「何処を」気にしているかを確認するために、下まで降りてみました。
沢に降りると、チャンスは沢水を飲んだり(舐め?)しました。
喉の渇きから「飲む」こともありますが、このときは「臭いを確かめる」動作の一つであったのかも知れません。
消失点に向かって登り返すときも、「何か」気にする動作を示していました。
これらの行動が「川に流れ込んでいる微細な臭い」によるものかどうかは確認のしようがありません。
しかし、前述したとおり、私の考えの中には「消失点下部積雪の融水(崖の下部から沢に流れ込んでいる)に溶け込んだ遭難者の臭いを感じての行動だろう」という意識が先行してしまっていたことも事実です。
捜索における経験と教訓
捜索における「悔やんだ」経験と「誤った」判断は教訓として次に役立てる…。
犬の明確な反応を別にして、犬の「?」反応をどれだけ役立てられるか…。
発見されたTさんのご冥福をお祈りするとともに、Tさんの捜索で得られた大きな反省と教訓を心に刻んでおきたいと思います。
北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び END
遭難者発見の報
チャンスを使った捜索の翌日夕刻、捜索責任者のOさんから電話が入りました。
「今日の午後、見つかりました!」
「それはよかった! 本当にお疲れ様でした!」 「発見場所は?」
「岩からすぐ近く川の反対側、深さは1~1.5mくらいのところでした」
「あまりお役に立てませんでしたが、見つかって本当によかったです」
「いやいや、こちらこそ大変お世話になりありがとうございました」
発見の報の後、昨年末から続いていた「悲劇」の終焉を実感するとともに、昨日まで捜索に関わった者として、「なぜ?反応しなかったのか・・・」「なぜ?あの仕草から絞り込めなかったのか・・・」
そして… 「なぜ?余計な(誤った)推論を考えたのか…」等々が頭を過ぎりました。
自分に腹が立つ
「なぜあの時」「なぜこう考えなかったのか」「なぜこうしてみなかったのか」といったことが心の中にこびりつき、気持ちが晴れません。
そして、チャンスの行動分析、現場状況分析に未熟な自分自身に腹が立ちました。
「川べりのエリアをもう1日探れば…」
「すでに掘りだしたトレンチを横切るような格子状のトレンチを新たに掘っていれば… 」
捜索の手法や反省から、「こうすればよかった」「ああすればよかった」という思いが再び生じてきました。
しかし… それは結果(発見位置)が出たからこそ言えることでもありました。
「明確な反応をイメージし過ぎていた自分」「客観的な視野・分析力を閉じていたかも知れない自分」
現場で繰り返される読みと判断の難しさ…。
反省ばかりが心に残る捜索でした。
とはいえ、結果を知った上での検証はとても貴重で重要なことです。
「見方」や「考え」に誤りがあるかも知れませんが、「多分」という思いも含めて… 自分なりに検証しておきたいと思います。
発見場所
捜索関係者から発見場所を記した資料が届きました。
実際の発見場所を知ると、「何故?」という不思議さと疑問、そして「やはり」という妙な理解が交錯します。

2月17日に大雨による積雪崩落で発見されたKさんから近い大岩の裏側からTさんは発見されました。
そこは、4月30日のトレンチづくりをしていた中の一つでもありました。
何度も繰り返されてきた捜索が「こんなに近く」という考え方を遠ざけてしまっていたかも知れません。

発見された場所周辺エリアは、プローブによる捜索が繰り返され、そして4月5日と30日にチャンスにも探らせました。
雪面やトレンチ付近から「もしや!」という嗅覚反応は見い出せませんでしたが、「読みとれない仕草」「何かを感じる仕草」、5月1日の谷に向かって「何かを気にする行動」があったことが、「臭い反応」の一つであったことは確かです。

実際の埋没遭難者の位置と、チャンスが行動しながら「?」を感じさせる場面を合わせると上の写真のようになります。
雪面から「臭いがとれない」状況下、岩と雪の間、沢床と雪底の間から「臭い」が流れ出しているはずです。しかし、その臭いは「微量」で、「感じるがはっきりしない・・・」というものだったのかも知れません。
特定できない「?」行動、「何かを感じている」仕草や行動、そんな「?」に通じる記録を次回もう一度整理してみたいと思います。
消失点下部の積雪から解け出して崖下の沢に注いでいる水の臭いを感じての行動か、昨日の捜索エリアの積雪から解け出して崖下の沢に注いでいる水の臭いを感じての動作なのか… チャンスの行動をどのように読み取るかは判断の難しいところでした。
とにかく、消失点下部の積雪についての嗅覚捜索を進めることにしました。

崖縁から消失点に向かって、昨日行ったトレンチ(溝)を掘ることをお願いし、数本の溝ができたらチャンスに「怪しい臭い」がないか探ってもらい、その間捜索関係者には休んでもらいました。
反応の得られない状態で長く作業を続けることが多くなるため、終了間際に捜索関係者にお手伝い頂き、シグマチューブを捜索エリアの脇に隠し水難シグマを少しふりかけてもらいました。
もちろん、チャンスにはわからないようにして… 終了させる頃にそこに辿らせ反応させ捜索意識の持続を図ってやりました。

下部から一定のエリアを捜索し、そのエリアが終わったらその上のエリアにトレンチを掘り、再び捜索させる、ということを繰り返していきました。
掘り出した雪塊はトレンチの脇に積んでおくようにしました。雪塊にも臭いが留まっているかも知れないからです。
昨日の捜索では、掘り出した雪を川に流してしまいましたが、「臭いの残っている雪塊」が含まれていたかも知れないと反省。

トレンチを掘っている間、チャンスを休ませます。

トレンチ掘り(チャンス休憩)→チャンスによる捜索(捜索関係者休憩)→その上のエリアのトレンチ掘り(チャンス休憩)→・・・・ というような捜索方法で進めていきました。

新しく掘られたエリアを丁寧に捜索させます。


皆さんと休憩、エネルギーと水分補給。

何度か行き来させては臭いを探らせますが、気にする、スクラッチする、といった動作が現れませんでした。
昨日のエリアで行った捜索では、今日のエリア内の積雪由来の臭いを感じているのでは、と思いましたが、こちら側(現在)の捜索で気になる反応が出ないと、やはり川の向こう(昨日の)ではないだろうか… という気持ちが強くなってきます。
さらに、初期の捜索における川に向かった行動などを考えると…。
しかし、今日の捜索では消失点下部の積雪エリアで「反応がないか」確かめることが大事です。

消失点~下部積雪帯の捜索を終了下山。
時間があれば昨日のエリアを再度探りたい… という気持ちがありましたが、下山予定時刻が迫り終了することにしました。
発見へつながる「臭い反応」を得られず、残念な気持ちを抱えながら BCへ向かいました。
ベースキャンプには昨日私と一緒に入った2人が留まり、チャンスと私は一昨日に入った4人とともに下山します。
明日(5月2日)には新たに別の8人が加わり、捜索が続けられます。
連休中の捜索でも見つからないときは、再度お手伝いすることを約束し、皆さんとお別れしました。
しかし、翌日(5月2日)、ご遺体発見の報が届きました。
詳細と検証は後日また。
5月1日の捜索(消失点から下部の積雪)
5月1日の捜索は、昨日の捜索で気になった消失点下部から川に落ちる壁付近を捜索することにしました。

チャンスの「気になる仕草」が、昨日の捜索エリアから見ると消失点下部の積雪層由来の「臭い」ではないか… ということが「気に掛かる」ためでした。
同時に、2月に発見されたKさんとあまり離れていない位置で消失(見失う)したとはいえ、受けた雪崩の爆風によっては雪面に叩きつけられた… ということも「考えてしまった」ためでもあります。

チャンスが感じていると思われる「臭いの由来」場所と、いくつかの「であるかも知れない」という「仮説」から、今日の捜索が実施されました。
もちろん、重点捜索エリアが2箇所ある、ということで「昨日」と「今日」でそれぞれ調べる、ということは当たり前の手法とも言えるのですが…。

川側を気にするチャンス…何故?
シグマシュードを使って雪面付近に存在する「遺体臭」捜索の意識付けを行ったあとに、消失点下部の積雪表面の臭いをチャンスに探らせました。

ところが、昨日のように雪面を嗅ぎまわすことなく、川に落ち込む崖っぷち付近に移動してしきりに下を意識するようになりました。しばらくその行動の様子を見ていると、自ら雪壁に近い急斜面を下っていき姿が見えなくなりました。

対岸下部の雪面には、昨日の捜索エリア内に掘り出したトレンチが陰影となってきれいに浮き出ていました。

チャンスは川べりまで下り、何か気にしている様子。後を追って急な雪面を川床近くまで下りてみました。
崖斜面の雪はかなり減っていて、万一この付近に遺体があれば視認はもちろん、臭い反応ももっと明確に出るであろう、と思える状況でした。
沢の水を飲むチャンスを見て、単なる「水飲み」としか思わなかったこと… それも今回の反省の一つです。
捜索開始間近で、まだ喉が渇いているような状況ではなかったからです。でも、本当に喉が渇いて飲んでいたのかも… 知れません。
難しい判断とは、このような場合もあり得るのです。
上から川に向かって「気にした」動作が「臭いを感じて」なのか、「水を欲して」なのか…。

ところが、雪壁を登り返す段階でも「何か(臭い)を気にする」仕草を示していました。
これも、もしかしたら「遺体臭由来」の反応だったのでは… と思わせるものの一つでした。
結果(遺体の発見場所)が出れば、その行動(犬の反応)における理屈が「もっともらしく」説明できますが、結果の出ていない段階で推理や仮定することの難しさ…。
それは後日知ることになります。
北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び Ⅳ
30日の捜索を終了して
初日の捜索で遺留品らしき手袋が見つかりましたが、場所を特定するような臭い反応が見られず、「消失点下部斜面の積雪内かもしれない…」という心理が働いたことは確かです。
時間が許せば、消失点下部と今日捜索した対岸エリアを行き来して探りたい、という気持ちがありましたが、その間の川を渡ることできない(下流の橋まで戻り登り返す必要がある)ため、作業として頻繁に行き来できない現実がありました。
対岸の消失点に続くアプローチ(3人移動中)。
30日終盤の捜索。
「何か感じる臭いはないか?」とチャンスに託しますが…。
「もしや」という反応は得られませんでした。
お疲れ様でした…。
トレンチ(Trench)から臭いを探る試み
雪面に溝(トレンチ)を掘り(実際には20~30cm程度)、臭いを探らせる試みを提案して、積雪層川縁を中心に 1.5~2mくらいの間隔で作業に入ってもらいました。

深い溝とは違い、比較的短時間で溝を掘ることができますが、たくさんの溝を掘るためかなりの労力が必要になります。一定のエリアに溝を掘ったあと、チャンスがそこを捜索する間は休んでもらいました。

溝はもちろん、周辺を含めて何度も臭いを探らせました。

チャンスの行動、仕草を十分注意して観察し続けますが… 雪面、雪中から「何かを感じる」明確な反応が見られません。


岩の周辺では「なんとなく」程度の「気にする」仕草を断片的にするのですが、雪面でスクラッチするといった反応は見出せませんでした。
難しい読み
岩に登ろうとする動作を何度かしましたが、トレンチが岩の付け根付近に及んでいるために少し躊躇する様子も見られました。その動作が何を意味しているのか、悩みました。
「消失点下部の融雪水からの臭い」を感じているのではないか…。
雪面を中心に「明確な反応がない」中、対岸の消失点下部の積雪に「臭いのもと(遺体)」が存在し、その下を流れる水を伝って臭いが出てきているのではないか…。
そんな心理が働いてしまう状況でした。
そして、その見方は可能性の一つではあっても、結果的には「誤った推理」となりました。
北ア抜戸岳雪崩遭難者捜索再び Ⅱ
消失点から吹き飛ばされた対岸エリアの再捜索
捜索関係者と「どこを捜索するか」を相談し、消失点から吹き飛ばされ対岸で2月に発見されたKさんの位置を中心としたエリアを捜索することにしました。
天気は快晴に近く、気温も上がり、強烈な陽射しが襲い掛かります。
前回と同様に、融雪が進む川縁近くを中心に「臭い反応(臭いの出)」がないか探ることにしました。
川縁周辺を何度も探らせましたが、はっきりした反応は見られません。
大きな岩を中心として、積雪と川との縁付近を丁寧に探らせました。ときどき、川近くを気にする仕草がみられたので、川床にも降ろして臭いを探らせました。
「どこが気になるのか」「どこから感じるのか」読み取れません。
岩の周辺から川に向かって「何かを感じている」様子は、もしかしたら… 対岸(消失点から続く積雪)の融雪水に含まれる「臭い」を感じているのでは… という考えを起こさせました。
対岸の崖から融雪に伴う水流が見えていたからです。しかし、これはあとから考えれば「余計な推理」でもありました。
消失点から「どうなったか」を考えるとき、発見された1人と「同様(吹き飛ばされた)」と考える確率と、「もしかしたら(吹き飛ばされていない)」と考える確率を比較したとき、確率の大きい方をより重視(徹底)すべきである・・・。
それは、後で反省することになります。
気にする大岩周辺の沢床に降ろして、「よりはっきりした反応」を期待しましたが… 読めるほどの反応はありません。
嗅覚捜索の開始からさほど経たないうちに、雪中に赤いものを視認。
掘り出すと、それは手袋でした。
捜索関係者に「手袋発見」を伝え、捜索に関わった人のものか、それとも遭難者のものか確認してもらったところ、「遭難者のものらしい」遺留品であることがわかりました。
軽い手袋は、遭難者から離れていてもおかしくはありません。発見位置から上流に向かってプロービングが行われました。
その間、引き続きチャンスに上流側エリアの捜索を続けてもらいました。
しかし・・・ 反応は得られませんでした。
川縁周辺の捜索を一段落し、しばらく休みました。
休憩中、雪中の臭いをどのようにして感じ取らせるか・・・ 捜索エリアを眺めながらいろいろと考えました。
プローブによる穴もその一つですが(雪中の臭いを出す試み)気流が川床に吸い寄せられれば臭いは出てきません。
深く掘れば、その場の臭いは出やすくなります。しかし、どこを掘るか・・・ 人力と時間に限りがあって、「ここ」という目星がなければ頼りは「運」だけになります。
いろいろ考えた末に、20~30cmの深さの「溝を掘って臭いを探る」ということを提案、捜索関係者に協力をお願いすることにしました。
「雪面よりは臭いを感じやすい」であろう、という程度のものですが、何もやらないよりは・・・。
とにかく、試すしかない・・・ という思いからでした。
4月29日の解体中建物利用瓦礫捜索訓練を終え、家に帰り着いてまもなく山の荷物を車に積んで夜の9時出発。中央道を松本に向かいました。
今回の捜索は、4月4~5日行った雪崩遭難者捜索現場での再捜索活動となります。前回の捜索から25日が経って積雪はかなり減り、埋没者の臭いも出やすくなっているだろう…という期待もありました。
静岡山岳会の関係者も、4月29日から5月6日までの間交代で捜索に入ることになっていて、チャンスはその一員として4月30日と5月1日の2日入ることになりました。
松本から上高地に続く山道を進み、安房トンネルから平湯、そして新穂高温泉へ。
午前1時すぎ新穂高温泉手前、満天の星空の下の駐車場に車を止め、シュラフにもぐりこみました。
4月30日
6時、左俣谷への林道基点近くにあるニューホタカ(宿)の駐車場で静岡山岳会の2名と合流。
山支度を整え、6時52分出発。
林道の残雪はほとんど解け、歩行もだいぶん楽に感じます。

アプローチ前半の林道とその残雪(左)。前回(4月4日)の様子(写真右)とくらべると雪の量の違いが明らかです。

ワサビ平小屋手前のデブリはまだ顕著ですが、周辺の雪の状態はすっきりしています(左)。写真右は4月4日の様子。
ベースキャンプ(BC)
捜索のためのBCは、前回の小屋隣からさらに600mほど現場に近いところに設営されました。
8時34分、昨日から入っていた4名と合流し、テントを増設。

捜索現場に向かう前に、水難用シグマシュードを溶解。

捜索前の意識付けと、捜索途中で時々与える「達成感」のために、今回も通常シグマとの二本立てで準備しました。
雪崩遭難現場再び
9時12分、捜索現場に向かいBCを出発。
雪崩遭難現場への途中にある巨大デブリは健在でした。少しずつ解けつつあることは確かですが、日に日にその硬さを増している大きな雪の塊です。
デブリの山から見る遭難現場も、前回と大きく様子を変えています。
これだけ雪が少なくなっていれば、発見につながる「きっかけ」は、どこかに存在していてもおかしくない…
そう思いながら現場に入って行きました。
このところ
4月後半から5月の連休は「捜索救助犬」日程が超過密的に続き、ブログのアップもままなりません。
4月29日は、19日の解体中建物利用捜索訓練(解体建物利用瓦礫捜索訓練)に引き続き瓦礫捜索訓練を行いました。
29日の瓦礫捜索訓練を終えたその夜、4月4~5日に引き続き未だ発見されていない抜戸岳雪崩遭難者捜索(抜戸岳雪崩遭難者捜索)を行うために再び岐阜県上宝村に向かいました。
そして、4月30日~5月1日、抜戸岳雪崩遭難現場での捜索に関わりました。
2日間の捜索では発見に結びつけることができませんでしたが、その翌日「発見」の報が届きました。
5月2日は、翌未明に出発する「捜索犬訓練キャンプ」の準備。
5月3~5日、昨年好評だった長野県川上村で訓練キャンプ(捜索訓練キャンプ in 川上村)を実施しました。
その他、4月24日は長野県富士見町まで「国際救助犬試験」の見学、26日は「捜索犬普段の訓練いろいろ」等々… 慌しい日々が続きました。
そんな日々の活動については… 逐次また。